武田 厚
武田 厚
多摩美術大学客員教授
美術評論家
前回の審査は何事もなく順調に進められ、審査結果の講評会も予定通り実施された。しかし今回はまったく違っていた。その一つは欧米からの審査員の来日が結局叶わなかったことである。結果として最終審査で彼らは実作を前にした審査ができなかった。つまり我々国内在住の審査員と同じ条件下での審査をする、ということが不可能となったということである。同時に、毎回実施されてきた審査講評を中心とした公開のシンポジウムも中止せざるを得ないということになった。そのどれもこれもがみんな新型コロナのパンデミックが決定的要因であったことは言うまでもない。
最終審査は当然のことだがリモート方式を取り入れて進められた。英・仏の通訳を交えながら画像と音声を頼りに意見交換を繰り返し、審査の段階毎に確認し合い、全受賞作品の決定までたどり着いた、というのが実感である。投票と挙手が繰り返された中で特徴的だったことは、意外なほど評価が分かれ、なかなか受賞作品を絞り込めなかったことである。その理由の一つにはリモート方式というものが幾ばくかの障害になっているように思った。とはいえ、主催者側にとっては緻密な計画と準備の下で最善を尽くした審査方法ではあったと言える。ともあれ、審査は日本時間の深夜に行われ、早朝の3時過ぎには終えることができた。
いずれの審査員にとっても、今回のファイナル審査はなかなか難しく、ややストレスの溜まりそうな時間を共有することになったように思う。しかしながら審査の結果についてはそれぞれが納得でき得る内容であったように思われる。とりわけグランプリ作品となった「切々、憧憬」は、最後の投票で一気に最上位にのぼりつめ、全員一致で選ばれたものだが、その著しい清浄感と繊細優美の典型のような造形にあらためて審査員の感性が揺らいだのかもしれない。また、第二席といえる金賞1点の選考については、同票となった 2点の優劣をつけがたく苦慮したが、幸い主催者側の特段の配慮によって特例が認められ、今回に限ってその 2作品に金賞を授与することが即決された。これもまた異例の決断と云えるもので見事であった。その他の受賞作品はもとより、入選作品の全体においても、個性的で意欲的なものが多く、表現の多様性が大いに楽しめる充実した内容であったと言える。
ところで、この度の応募点数は300点を少し超える数で、応募作家は37の国や地域で前回とあまり変わらない。しかしコロナ感染とウクライナ戦争で地球環境は大きく変ってしまっている。それでも世界各地の作家たちからガラスの造形を通して様々なメッセージが届いている。このことに、主催する側の国民の一人として私は熱い思いに駆られる。