苫名 真

苫名 真

苫名 真

市立小樽美術館館長

1980年代は国際的にガラスアートが活況を呈した時期で、私が勤務していた北海道立近代美術館でも1982年から3年ごとに「世界現代ガラス展」を開催しました。同展は第5回展をもって終了しましたが、ほぼ同時期の1984年にスタートした「国際ガラス展・金沢」は回を重ね、今回で15回目。世界の最新のガラス状況を定期的に俯瞰できる貴重な機会となっています。関係者の皆様の継続への努力に心から敬意を表したいと思います。

さて、私が国内外の調査を担当した最後の「世界現代ガラス展」からすでに30年近くが経っています。今回の審査には当時の記憶を呼び起こしながら臨みました。

この間の変化としてまず感じたのは、地域性が希薄になったということでした。かつては作品を見ればかなりの程度、それがどの地域の作家によるものかを言い当てることができたものです。惜しい気もしますが、これは教育機関が整備され、情報入手も容易になったことで地域格差がなくなり、制作環境が平準化したことを示しているのでしょう。

完成度が高い作品が増えたという印象も受けました。ほとんどの作品において、作者の構想が適切な手法と技術によって狙い通りに実現されていたように思います。これは時間をかけてじっくり取り組むことのできるキルンワークやバーナーワークが多用されていたこととも関係していそうです。一見ガラスらしくないテクスチャーや、繊維や紙を折って成形したかのような造形が新たな傾向として目を引きました。

少し残念だったのが、30年前の審査では時折体験した「こんな手があったか」という意表を突かれるような驚きを感じられなかったことです。スタジオグラス運動の開始から60年。さまざまなアイデアが出尽くし、誰も見たことのない斬新な表現などもう残されていないのかもしれません。

地域の特性や伝統に再度目を向けるのも一策かと思いましたが、応募作品の中にガラスアートの原点に回帰し、あらためてその可能性を探ろうとする姿勢が芽生えていたことに安心しました。ここから新たなムーヴメントが起こることを期待しています。

苫名 真

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