志甫 雅人

志甫 雅人

志甫 雅人

(公財)石川県デザインセンター
チーフディレクター

本審査会で今回の出品作品を初めて見た時、一言でいうと「古くて新しい」または「懐かしいけど未来的」といった印象を強く抱いた。時代のエッジがきいた作品ではなく、どこか普遍性を求め、次の時代のスタンダードを模索する作品が多いと感じた。また、作家が作ることにすべての意識を集中させるのではなく、無作為とまではいかないものの、どこかガラスという素材がなりたがっているかたちを探っている、ガラスの素材にまかせているといった作家の志向性というものも強く感じた。

今回の本審査会は、新型コロナウイルスの感染拡大による入国制限の影響等が心配されたため、海外審査員にはビデオ会議システムを用いたオンラインによる参加の方法をとった。しかしビデオを通じて丁寧な意見交換と投票を何回も重ね、ベストな入賞作品が選べたと思う。一方、これまでは審査会翌日に審査員全員による講評会を開催して、大賞をはじめとする入賞作品の講評を行ない、その作品を選んだ理由や優れた点などを明確にしてきた。その内容は図録にも掲載され、多くの方々の参考に役立ってきたと思うが、今回はこのような状況で中止せざるを得ず、残念でならない。

さて、今回も応募者の顔ぶれを見ると、ベテラン作家と若手作家がともにエントリーし、審査会では競い合いながらも、今秋の展覧会ではお互いに響き合うこととなる。ただ、審査プロセスでの課題を1つ挙げると、提出される作品画像の質の向上であろう。1次審査では作品のコンセプトやクリエイティビティ、クオリティがたった3枚の画像で判断されることになるので、作家は伝えたいことが伝わっているかどうかについて最善の注意をはらうべきである。

2020年代となり、作家のコンセプトやクリエイティビティの多様化と重層化がますます進み、ガラスアートの可能性とグローバル化が加速度的に拡大していると思う。そしてクラフトとアートとの境界を意識しないで作家たちが活躍できる時代が到来していることを強く感じている。

志甫雅人

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