特別寄稿

美しいガラスあるいは美しくないガラス — 歴代の受賞作品を振り返る —(8/9)

第12回展で最も興味深かったことは、グランプリ候補となった二作品の争いであった。姜旻杏「Shape of Emotion」は抽象造形のオブジェであり、塚田美登里「光華」は瑞々しい装飾に覆われた巨大な器形のガラスであった。主題は、前者が感情と理性の在り方の思索から発想したもので、後者は自身に内在する自然観から発した心の世界のようであった。共に個性溢れた見

事な作品であった故に評価は二分したままであった。結論としては姜旻杏の作品がグランプリを勝ち取ったのであるが、見解の分かれは、彫刻的オブジェか巨大なガラス器か、とも云える評価の視点の違いにあったように思われる。とはいえ、最終的には、ガラスの美感を保った巨大な工芸ではなく、ガラスの美感を敢えて捨て去る事で表現のオリジナリティを強く求めたオブジェを選択したことは事実である。これはこの展覧会にとっては、様々な意味において象徴的な選択だった、と私は思う。

その後のグランプリ作品、広垣彩子「Ambiguity」、津守秀憲「胎動 ’19-3」もまた、共にまったく異質な造形世界のそれぞれの幕を押し上げた作品だったように思う。と同時に、想像もつかない技法の開発や素材研究などが彼らの仕事の試みを支え、新表現としての現代美術を可能としているところも大変興味深いし、この分野の将来を期待させてくれてもいる。

2013年(第12回)大賞「 Shape of Emotion」姜旻杏

2013年(第12回)大賞「 Shape of Emotion」姜旻杏

2013年(第12回)金賞「光華」塚田美登里

2013年(第12回)金賞「光華」塚田美登里

2016年(第13回)大賞「 Ambiguity」広垣彩子

2016年(第13回)大賞「 Ambiguity」広垣彩子

2019年(第14回)大賞「胎動'19-3」津守秀憲

2019年(第14回)大賞 「胎動’19-3」津守秀憲