特別寄稿
美しいガラスあるいは美しくないガラス — 歴代の受賞作品を振り返る —(5/9)
第2回展でグランプリを受賞しているのは扇田克也の初期の作品で、器形のオブジェ「不思議な夢」であった。パート・ド・ヴェールによるこの作品では、ガラスという素材に付随する伝統的な美意識にはあまり従わない、という無意識的な働きがうかがえるものだった。しかし扇田克也のその後の作品では、ガラスならでは、と云える素材の特質を存分に活用して滞留する光のオブジェを連作し、ガラス彫刻の新たな世界を開いて見せてくれている。88年の3回展から、90年、92年、95年と続く中で最も印象に残る作品を発表したのはチェコのDanaZAMECNIKOVAだったように思う。多くの作品がガラスによるガラス造形としてのユニークな美の領域を競っている中で、彼女の作品は全く異質なものであった。「PORTRAIT」と題されたその作品は、ペインティングされた透明な板ガラスを積層することで、描かれた肖像の内面をえぐり出しているような複雑な心理的表現を示すものであった。明らかにガラスを支持体とした特異な絵画であった。チェコにおけるこうした傾向のぺインティンググラスは、チェコの作家の言うガラス彫刻と同様に、表現における意識は常に現代美術としての絵画であり彫刻であって、ガラスは好みの素材としての支持体であったと言っていいだろう。