講評会

審査員特別賞受賞作品について(2/2)

Fly / In between / Sink

Fly / In between / Sink
H56×W33×D25
H36×W40×D26
H32×W34×D26
2018
宮木 志江奈
MIYAKI, Shiena (Japan)

武田 ───── この作家はラトビアの方ですね。
次の審査員特別賞はジェイ・マスラー賞です。マスラーさんが選ばれたのは、宮木志江奈さんの作品です。実は 3 点組で、今、一つ一つご覧頂いていますが、大体同じような大きさで、56 cm × 33 cm × 25 cm、36 cm × 40 cm × 26 cm、32 cm × 34 cm × 26 cm です。それぐらいのサイズの物が 3 点で 1 組の作品になっています。マスラーさん、お願いします。

マスラー ───── 実は、この作品にはタイトルだけで惹かれてしまいました。審査では、鑑賞の邪魔にならないように作品には番号だけの札が付けられていて、気になった作品があればその札をひっくり返して裏面を見ると、制作の意図や技法などの情報が確認できるようになっていました。
その時に見えたタイトルが「Fly/In between/Sink」で、日本人の作家ですが、作品名を英語で付けています。一つ一つの言葉の間にスラッシュが入っていて、「Fly」には空を飛ぶとか、昆虫のハエといった意味があります。続いて「In between(間に)」という言葉があって、「Sink」は沈むという意味もあれば、台所の流しや洗面台という意味もあるので、一体何だろうと思いながら、作品をもう一回見ました。この作品に惹かれたからインフォメーションを見たのですが、その時、海岸に自分が立っていて、海岸の波が高く自分の方に打ち寄せてくるような印象を受けました。それで、これを自分の賞に選んだのです。
この「作品の意図」には「心の中にある光と影、そして光にも影にも染まり切れない曖昧な私。“希望に満ちた私”と“不安でいっぱいの私”、その間を揺れ動く中途半端で“歪な私”を形として表現することを試みた」とあります。

早川 ───── マスラーさんは英語を話す方なので、単語を見ただけでは「もしかして、流しに落ちて溺れた昆虫のハエだろうか」と冗談でなく思われたようでしたが、最終的なイメージとしては、海岸に立って波が大きく打ち寄せる光景を想像しているということです。

R-IX

R-IX
H20×W37×D20
2019
大木 春菜
OHKI, Haruna
(Japan)

武田 ───── ありがとうございます。次は藤田潤賞を受賞した大木春菜さんの作品についてお願いします。サイズは幅 37 cm、奥行 20 cm、高さが 20 cm で、それほど大きい作品ではありません。

藤田 ───── 大木春菜さんの作品です。作品名は「R-Ⅸ」で、どういう意味なのかは理解できない、枕を横に広げたような形をしています。大きさもちょうど枕ぐらいですが、枕を捻ったような感じの作品です。技法はケインワークとだけ書いてありますが、作品を見て頂くと、横に長い線が入っています。恐らく一本一本の棒を引いて、それを寄せ集めて加熱して板を作り、それをまた組み合わせて吹きガラスで吹いて、成形しながら途中で捻ったり、叩いたりして作っていったのだと思います。端にかすかに吹き口の跡が残っていました。
非常にお若い作家ですが、私は吹きの仕事が主なものですから、やはり宙吹きの妙というか、吹いていってちょうど良い頃合いを見つけて、膨らみ具合の良いところで曲げたりして、揺らいでいく形を探し求めているという印象を持ちました。本人からは、吹きガラスというものの中から「命のようなものを感じる。まるで生きているかのように…」というコメントが出ています。大変シンプルではありますが、すっきりとした、上品で繊細な形だと思いました。

季秋の夕暮れ Sunset of Autumn

季秋の夕暮れ
Sunset of Autumn
H40.2×W44.3×D21
2018
藤田 創平
FUJITA, Sohei (Japan)

武田 ───── 最後に私の賞ですが、選んだのは藤田創平さんの作品です。サイズは高さ 40.2 cm、幅 44.3 cm、奥行 21.0 cm の作品です。
これは非常に目につく作品でした。まず、フォルムが非常にシャープですっきりしており、色感はあまり目にすることがないようなもので、私には非常に新鮮な色合わせでした。タイトルを見ると、季節の秋がイメージのもとになっているようです。それをどういう形で表現するかというのは、どちらにしても抽象表現になるわけですが、このような形でやってみたという作品です。
今回の作品には、冒頭に申し上げたようにオブジェの傾向のものが非常に多く、このように工芸的な趣向の作品が非常に少なかったのですが、それを抜きにしても、全体の中で非常に私の目に飛び込んできた作品でした。このような仕事においても、オブジェにおいても、何といってもオリジナリティ、独創性が非常に大事なわけです。藤田創平さんはまだお若いと思いますが、きれいな美しい仕上げの作品で、なおかつ、斬新さをさらに色や形の中で追い求めていくと、もっと違った作品が生まれてくるかもしれません。見たことのないものを見た時の感動というのは非常に最後まで残るものですが、そういう意味で私の審査員特別賞にはこれを選びました。
講評は以上ですが、今回、大賞やその他の賞を受賞された方で、この会場にお越し頂いている方がおられるようです。せっかくですか ら、事務局から紹介して頂きたいと思います。