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Jurors Comment 審査講評

第一次審査

藤田 潤

藤田 潤
ガラス造形家、日本ガラス工芸協会理事長

「国際ガラス展・金沢2010」が今回も質の高い内容で開催されることは、ガラス・芸術に携わる者の一人として大変嬉しく思うと同時に開催委員会の永年の尽力に深く感謝申し上げます。
写真で審査することの難しさは多くの人が色々な場で指摘していますが、今回も例外ではありません。私が日頃尊敬の念を持っている作家の作品が相当数あり、審査員として改めて接することの名誉と責任の重さを感ぜずにはいられませんでした。また未知の作家のものは写真を繰り返し見ることによって、作家の意図や作品の質を理解するように努めました。ただ470枚のスライドはフラッシュで見るだけでも軽く1時間を超え、集計しては再度画像を見るという作業が7〜8時間も続くことは肉体的にも辛いものでした。
約7倍の狭き門を通過した入選作はどのガラスコンペより質が高いのではないかと思います。中でも上位で通過した作品はきっとそのまま賞候補になるのではないでしょうか。ボーダーに並んだかなりの数の作品のうちどれを選ぶのかは難しい判断でしたが、最終的には審査員の討議と挙手で決めました。判断の基準は、作品画像が語りかける「チカラ」だったと思います。テクニックも大きさも必要ですが、それ以上に大事なのは「訴える力」です。8月の展覧会では実作から作家の声を聞きたい衝動にかられました。

水田 順子

水田 順子
北海道教育庁生涯学習推進局文化・スポーツ課芸術文化グループ主幹

1984年の第1回展開催以来11回目となる本展は、世界各国から応募のあった多数の作品群の中から高い倍率をくぐり抜けて選ばれた作品によって、その時々のガラス芸術のシーンを切り取ってきた。さまざまな作品の方向性を敢えて広く許容する形で、「暮らしの中のガラスから新しい芸術表現としてのガラスまで」、この素材の多様な可能性を示してきたのである。公募展の常として、作家の考え方や作品のスタイルによって、こうした公募展を作品発表の場として選択しない作家も少なからずいるであろう。しかしその点を差し引いても、若手もベテランも同じ一つの舞台に立ち、作家自身の目も含めて、厳しい視線にさらしてそれぞれの仕事の位置を確認する貴重な機会となってきた意義は大きい。
さて、見る側はやはり新しい表現やアプローチに出会えることを期待する。本展においても意欲的で斬新な作品が見られたことは幸いである。しかし、ガラスという多面的な素材から独自の言語を導き出して表現に結びつけることができたとき、まさにその時点から個々の表現者としての仕事の継続が問われることになる。その意味で、世代を問わず、自ら獲得した独自のスタイルを熟成させて新たな展開を試みたり、深めてゆくことに成功している例が見られたことも大きな収穫ととらえたい。逆にその取組が不十分であれば、新鮮さを失っていると映ってしまうのである。一方、完成度は高いが先行する作品の影響が色濃く感じられるものが数例見られた。
本展が、新たな創造力の登場に広く門を開きながら、他方、たゆみない制作活動の成果として円熟の作品が出品され、ともに火花を散らすような密度の濃い展覧会として今後も継続していくことを期待したい。

小松 喨一

小松 喨一
金沢卯辰山工芸工房館長、(財)石川県デザインセンター副理事長

次々と新しい世代のガラス造形者達が増え層も厚くなり、また質も高まっていく世界のガラス造形の動向の中、「国際ガラス展・金沢」の公募展が11回を数え注目を集めてきました。
前回の参加35ヵ国が、今回は39ヵ国に、応募点数も456点が470点と数字の全体像を見ても関心の深まりを感じます。
一次審査(スライド)は、今回も数多くの素晴らしい作品画像と接することができました。長時間の神経の集中は当然ですが、その作品選択には限界があることも否定できません。
しかし各審査員により素材や技法、ガラスの魅力ある創造へのアピール、新しい方向性について熱心に討議させて頂き、入選者(現物作品審査)21ヵ国74点(うち日本36点)を決めることができました。
本展は、世界唯一のガラス造形の公募展として、1984年(昭和59)に始り、今日26年間、世界のガラス・シーンの今を展望するにふさわしい国際的な展示会としても評価されてきました。
特に開催地(日本・北陸地域)では、この間、ガラス造形者の人材育成や若い世代の積極的な造形活動に刺激と大きな影響を与えました。
この公募展が世界の意欲あるガラス造形者の誕生に繋がればと思っています。

本 審 査

武田 厚

武田 厚
多摩美術大学客員教授、美術評論家

一次審査の壁を越えて残った作品は応募点数のおおよそ七分の一に過ぎない。その点では今回も又厳選だったと言ってよい。しかし問題はその中身である。イメージとデータによって選ばれた作品が期待通りの内容かどうかは実作を見るまでは分からない。一次審査の委員の一人でもある私としては、毎回このことが最大の心配事となる。幸い、今回もまたこの課題を何とか乗り切ることができたことを、二次審査の会場に入って実感できた。つまり、ガラスならではの独創性の豊かさを感じさせる期待通りの多種多彩な作品が、それぞれ十分に自らの存在感をそこで示していたということである。
言うまでも無く、複数の審査員が抱くそれぞれの美意識や評価の視点は異なるものである。だからこそ各自の見解の相違を互いに理解し、密度の濃い協議を繰り返すことが毎回重要となる。その意味において、今回の審査もまた最終的に見事な合意のもとに全ての受賞作品を決定させることができた。それを裏付けるように、翌日開かれた公開講評会において、各審査員は自身が推薦した作品に対する評価の理由、その見解をある程度述べる機会を得た。これも毎回実施されるプログラムではあるが、審査員にとって歓迎すべきことであり、同時に審査の責任の所在を明らかにする大切な場となっている。
正直言って、選考は容易ではなかった。時間の経過と共に最初の閃きが薄れ、見過ごしていた作品にあらためて目が向くことがしばしばあった。しかし結局のところ、着想や技術の素晴らしさだけではなく、表現のオリジナリティが最大の評価点となった。大賞を射止めた作家は無名の新人であり学生であったが、作品の全ての点においてユニークで新鮮であった。また、国の文化的背景を感じさせるアメリカやエストニアの個性的な作品も銀賞等に選ばれたことで、受賞作品の内容の幅が好ましい方向に広がったと言える。

イジィ・ハルツバ

イジィ・ハルツバ
ガラス造形家(チェコ)

アートは人生を映す!「国際ガラス展・金沢2010」は、私たちが今どう感じ、何に思いを馳せているかを見つめる。
ガラス展は現代の創造性を表す2つの概念も見せる。有機性と構成性。すなわち意識と知覚である。私たちの右脳と左脳の働きは、一方で感性、他方で理論的熟考をつかさどる。「国際ガラス展」で両方が見える。
「国際ガラス展・金沢」で、強い個性が主張する。このコンペは、国と地域同士ではなく、ひとつの世界で、個人個人が競い合う。グラスアート部門を持つ教育機関が増え、グラスアートに関わる若者が増えたのは嬉しい。さらに、教育のおかげで女性のグラスアーティストが増え、この魅力的な素材、ガラスと取り組んでいるのは素晴らしい。
大賞受賞作は有機的なフォルムと抽象的な形。ベーシックな細胞、生命誕生のよう。ガラスという素材が石関敬史さんによって独得に解釈され、説得力を持ち、華やかさや脆さが表現された。はかなく壊れやすいガラスは人生のようだ。
ディテールの優しさや豊かさ、グラスファイバーの構成、ふぞろいさ、刹那的で不完全で、未完成の感覚が、私たちを美意識や哲学的な結論へと誘う。これまでのガラス展の作品をはるかに超え、「国際ガラス展・金沢」の歴史を高みへと塗りかえた。今日のビジュアルアートの最高表現の域に達した。この彫刻は、私たちに素朴な疑問を投げかける。「私たち人間の無慈悲な活動ゆえ、地球という惑星に暮す命が、怒涛の如く終焉へと向かう。われわれはどうなるのか」と。同時にこの彫刻は、心あたたまる追悼の祈りと素晴らしい美の体験をも内包する。
マーレ・サーレさんの銀賞受賞作。1人の繊細な女性の心と魂の優しさ、親密さを感じる。タイトル「SYNONYMS OF WAVE」は、ガラスの詩だ。小さな作品で、そっと手にとり大切に扱い、守ってあげたい。控えめで、皮ふ感覚があり、日本のわび・さびを秘めている。
イングナ・アウデレさんのハルツバ賞受賞作。私は自分の審査員賞をこの作品に決めた。古代からのメッセージのようだ。まるで前史時代の「ビーナス」のようだ。小さな作品だが堂々としている。貴重な「考古学」の発掘品のようだ。金色、時を経た風格、時間を超越したフォルムがすばらしい。

ヨーン・スコーウ・クリステンセン

ヨーン・スコーウ・クリステンセン
ガラス評論家、アナバーグ・ガラスコレクション・キュレーター兼理事長、元デンマーク王立工芸博物館キュレーター(デンマーク)

現代ガラスは大切なアートメディアであり、現在は何千人ものグラスアーティストたちが、さまざまな表現や技術を持ち、世界中で活躍している。
グラスアートの今の多様性は、ここ50年で展開された。1980年代には、石川デザインセンターが現代グラスクラフトと現代グラスアートのためのすばらしい公募展をシリーズとして開催し始めたころ、新しいトレンドを明確にするため、世界のグラスアートの全体像を把握できた。今日では、包括的なガラス展であっても、ガラスコンペであっても、前出のような分析は困難だ。
だから「国際ガラス展・金沢」はかなりユニークな存在であり、世界のグラスアート最重要地域と関わってきた。今や金沢で開催される「国際ガラス展」は、世界中のグラスアーティストが知っている。このコンペに参加し、遠く離れた金沢で開催されるガラス展に作品を出すグラスアーティストが増えている。
「国際ガラス展」を主催する石川デザインセンターと国際ガラス展・金沢開催委員会は、長年すばらしい成果を上げてきた。大変なご苦労だろう。「国際ガラス展・金沢」は、第一回目から、日本のガラス作品と世界のガラス作品の両方を展示し、重要な国際展となってきた。
日本のグラスアーティストは、ごく普通にこのコンペに応募し参加する。もちろんすべての応募者と作品は、同じ土俵で審査される。しかし、日本はグラスアートの分野で強力な国へと成長した。最終審査に残った日本人のグラスアーティストの数は、世界からの応募者で最終審査に残ったアーティストの数の合計に匹敵する。
今回の第一印象は、世界の国々の作品に比べ、日本人のグラスアーティストたちの芸術性と独創性は一歩高みへ上ったと感じた。

ウィリアム・ダグラス・カールソン

ウィリアム・ダグラス・カールソン
ガラス造形家、マイアミ大学寄付講座教授(アメリカ)

「国際ガラス展・金沢2010」の最終審査に初めて参加した体験は印象的だった。まず、「国際ガラス展」を運営する主催者のプロ意識が高い。石川デザインセンターは2010年創作の世界のグラスアートの最高峰を集めることができた。多言語、輸送、注意深い扱い、設置、さまざまな書類を伴う。しかし十分周到に準備され、審査員たちは美の評価に専念できた。応募者から送られたスライドによる一次審査は大切だ。最終審査では、作品がうまく並べられ、効果的に審査し、責任を持って受賞作品を決定できた。
審査員たちは、作品の視点を議論し再検討した。コメントは率直、正直。美的な優劣をつける主観的作業中も、できるだけ客観的に審査した。これは刺激的だった。審査員たちが優れた作品だと評価する作品は、似通っていた。
審査上で、私はメタファーとして、ガラスを目に見える言語としてとらえた。このはかなく存在感のある素材を、各アーティストが独自の方法で、多様な表現を作品に込めた。この時代、この瞬間に、ガラスを再定義し、新しい情報や思いがけないものを見せる作品を、審査員たちは探し出した。
受賞作品から、不変の特徴や精神を発見できる。これこそが、審査員の芸術的な欲求をとらえ、「国際ガラス展・金沢2010」の評価にふさわしいものとなった。
カールソン賞は、伝統的ホットガラス・プロセスの作品だ。伝統を超越した新しい解釈が見える。2つのシンプルなフォルムは布で包まれているようだ。
このガラス展が開催されてきたおかげで、ガラスにユニークな機会が生まれた。ガラス展に応募した作家たちを振り返ると、いくつかの地域では、ガラスをめぐる活動が活発なのに、このガラス展には応募が少なかった。グラスアートが正しく評価されることは大切である。この「国際ガラス展」がますます発展し、より多くの未来のグラスアーティストたちが作品を寄せてくれるよう望んでいる。

Naoto Yokoyama

横山 尚人
ガラス造形家

一堂に会した入選作品を見て、見応えのある力作が集まったなという第一印象を受けました。中に、前に出品したものと変りがないなと思わせる作品が幾つかありました。いずれも独自の技法による立派な作品なのにそこには前作を超える感動が無いのです。新たな創作に向けてチャレンジする場でもあるこの「国際ガラス展」への取組としては物足りなさを感じる部分でした。見慣れた同じ技法で作られたものであっても、そこに表現の新しい息吹きを感じたとき、人は感動するものです。思うに、素材と技術に片寄り過ぎることなくもっと作者の感性の表現、感動や喜びの表現がなされていいのではないでしょうか。今、現代ガラスの潮流にそれが欲しいと思います。
そのような観点から見て、銀賞を受賞した田原早穂子の「線の夢」は作者の感性が生き生きと伝わって来るいい作品だと思います。細い線で描かれたエッチングを思わせるドローイングがガラスの塊の中に浮遊している面白さに魅力を感じました。透明な薄い黄色い色が黒い繊細な線の表情を引き立てています。ガラスならでは出来ない作品といえます。表現と技術が融合したこの作品は、小さいけれど創作のあるべき姿の一端を示しているように思います。
審査員特別賞として僕が選んだジャコブス・カミーユの作品は現代ガラスの故郷ともいえる器の形の作品です。大きな区割の色面構成で形と色が一体化したおおらかな表現がいいと思いました。色彩学者イッテンへのオマージュという意図がよく伝わってきます。
世界中から作品が集まり正に世界のガラス・シーンそのものといえるこの「国際ガラス展」開催の意義を更に強く思った審査会でした。

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国際ガラス展・金沢開催委員会事務局

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