Jurors’ comments
on the Preliminary Slide Assessment
審査講評 第一次審査
藤田 潤
- ガラス造形家
- 日本ガラス工芸協会理事長
「国際ガラス展・金沢」が29年の歳月を経て、今回第12回を迎えることになりました。どこの国の作家も自由に応募でき、画像審査をパスすれば、遠近に関係なく実作を出品できるというガラス・アートの展覧会は世界中でも唯ひとつだと思います。人材や資金の面から考えても極めて大規模なこのような展覧会を永年にわたり継続されている主催者には、ガラス作家の一人として心より敬意を表します。
さて、今回も画像審査を担当させていただくことになりました。前回よりも応募者は減少したそうですが、全ての画像(332点)を見るだけでもゆうに5時間を超える量がありました。各作家にとっては懸命に作ったものを安易に見落としてはいけないと思い、丁寧に全体、細部を見るように努めました。実作と画像の違いは常にあり、展覧会場で実作を見たとき、写真の方が良かったのにという思いを抱くことは時々あります。しかし画像が悪くては、良く解釈することも出来ません。今回もそのような画像が幾つかあったことは残念でした。
応募者が減少したとはいえ、約5分の1程度にしぼるというのは、やはり狭き門です。審査は各審査員の挙手を基本として、その合計点で決しましたが、私が関わった国内のどのコンペより入選作品の質は高いものだと思います。
作品には語りかけるメッセージが必要です。「激しく訴える」「静かに語りかける」それを画像から読み解くことは、難しいことですが、何度も見ることが理解につながります。若手の作家が新鮮な表現や技法で創作した作品を見るのは楽しいことですが、ベテランも独自の作風を維持しながら、次のものを作り上げていく姿は感動的です。
新しい会場で、実作を見ることを楽しみにしています。
水田 順子
- 北海道立近代美術館学芸副館長
「国際ガラス展・金沢」は、現在では国際的にも希少な発表の機会を継続して提供してきた公募展である。大賞受賞作品をはじめ、数は少ないながら、意表を突くような独創的な形態や色彩、質感を追求した作品が生み出されていることをまず大いに喜びたい。また、いくつかの作品では、オーソドックスな手法も含め、ガラスという素材の特質を活かすさまざまな技法を駆使しながら、完成度の高い洗練された造形が追求されていることも好ましく、地道な試行錯誤と研鑽に敬意を表したい。
しかし一方で、応募作品の画像を見渡したとき、作品の傾向如何に関わらず、ガラスを素材として選択する以前の、表現者として創造することへの内なる強い思いが希薄になってはいないか、という疑念を払拭できなかったことも否定できない。
材料の調達やガラスを扱う技術についての情報が十分にいきわたり、設備もかつてないほど整ってきた現代においては、ある程度までは思いを形にすることも実現しやすい環境にあると言えるかもしれない。しかし、真に創造的な独自の表現を獲得することは、作品を構想する上でも、技術的な観点からも、決して容易でないことは普遍的に変わらないはずである。ガラスは実に多面的な造形上の可能性を秘めた素材ではあるが、果たして今日なお時代を映す多様な表現を担いうるのかどうか?
今後さらに多くの作家が、本展を飽くなきチャレンジ精神の成果を問う機会ととらえ、現代を生きる私たちに発見と感動をもたらしてくれることを期待したいものである。
小松 喨一
- 金沢美術工芸大学名誉教授
世界ガラスシーンの今を展望する「国際ガラス展・金沢2013」審査発表及び講評会が、7月12日に開かれた。
今回は第12回展となるが、世界35ヶ国332点の応募作品から、受賞対象作品として17ヶ国68点の作品が選ばれる。
毎回のことながら、1次審査はスライド(画像)のため、各審査員の意見のまとまりに苦労が多い。
この「国際ガラス展」に触発されたのか、北陸では1989年(平成元年)に金沢卯辰山工芸工房でガラス造形の人材育成が始まり、能登島ではガラス美術館の開設や民間のガラス工房の活動もスタートする。
北陸隣県では、富山ガラス造形研究所の開設、福井では金津創作の森でアーティスト育成活動が始まっている。さらに近年では、個人の工房活動も多くみられ、金沢を中心に、北陸でガラス造形を志向する人々が増え、関心の高まりを感ずる。
古くて新しいこのガラス素材の創造が、日本で工芸の美意識に注目されて既に一世紀余りになるが、ガラス造形の魅力は奥深く、他の工芸に刺激を与え、また刺激を受けながら互いに表現の可能性を広げているといってよい。
数多くの伝統工芸を有する石川で、ガラスという新たな造形の技術や生活文化、さらに産業領域への拡張発展が強く望まれる。