Jurors' Comments
on the Final Assessment
審査講評 本審査
武田 厚
- 多摩美術大学客員教授
- 美術評論家
前回に比べて応募点数が30パーセント強も少なかったことは、審査する側にとっても少なからず衝撃的なことであった。がしかし、第一次審査を通過して残された作品の内容は前回に劣らず魅力的であった。最終審査で最も印象的だったのはグランプリ候補作品の選考だった。とりわけ終始トップ争いを繰り返した二点の作品については、結果としてグランプリと金賞に分かれてしまったが、いずれも譲れぬ傑作として各審査員から評価された。作者は共に日本在住だが、一人は韓国の作家でいま一人は日本人作家である。高い評価の要因となったのは、コンセプトと造形の両面における際立って明快なオリジナリティであったと言える。しかもその表現の方向性があまりに対照的であったことも我々の印象を強くした。つまり、一方は日本の伝統的な様式と自然観というものを創作のベースとして、その上で自身の現代的な造形センスを積極的に駆使したオーソドックスな手法によったもので、その簡潔な造形のダイナミズムは彫刻そのものという作品である。他方の作品は、日常的に感じる不可視な精神世界のようなものがイメージの源泉となって、それらが作者自身にも理解できない不思議な形体を生じさせたようである。それでいて強靭な生命力を感じさせる未知なるオブジェとなっている。強烈な個性と表現力を持ち合わせた二人の作家の作品が、この度の展覧会に新鮮で密度の濃い内容を強く印象づけるのではないかと私は思っている。また、4点の銀賞受賞作品、6点の奨励賞受賞作品などにも、特に注目すべき独創性に富んだものが多く見受けられた。
ウィリアム・ダグラス・カールソン
- ガラス造形家
- マイアミ大学寄付講座教授
「国際ガラス展・金沢2013」は これまで12回にわたり継続して開催されてきました。
回を重ねるごとに進歩をとげ洗練されています。それこそ現代ガラスです。
応募されるガラス作品を評価し、すぐれた作品を選ぶことに責任を感じています。
光栄にも国際ガラス展の本審査に参加し、その結果をガラスコミュニティ、美術館、コレクターたち、作家たち、ガラス展に来てくださる日本の人々と分かちあっています。
すばらしいカタログが 本審査まで残った作品すべてを載せています。
現代ガラスは 実に多様で複雑です。各審査員は独自の「見方」を持っています。各自の文化的背景に基く主観です。美しい作品と思うものは異なります。最初に主観によって評価が行われました。審査が進むにつれて、私たちは客観的なアプローチを取り 作者の解釈、コンセプト、その表現などを詳しく調べました。ガラスに対し、まったく新しい想像力で挑んだ独創的な作品をさがしていると、すぐれた技術や繊細な作品は選ばれないことがあります。
この点について審査員たちは、時間をさいて、作品のクオリティーを話しあいました。
易しい作業ではありません。決定にも時間をかけました。このガラス展全体を偏見なくよく見きわめました。
「国際ガラス展・金沢2013」では審査員の能力とプロとしての集中力が求められました。ついに受賞にふさわしい作品が決まりました。しかし どの作品にどの賞をと決めるのはさらに困難でした。何度も投票をくり返し話しあい、本審査を終えました。
今年のグランプリと金賞の受賞作は 自然から触発された作品です。
ガラスのインスピレーションは植物と成長にフォーカスされています。作者たちの創造性ゆたかなスタジオでの出来事から生まれているのでしょう。
最終的な得点から受賞作品は 今回のガラス展を代表するにふさわしいものが選ばれました。まったくの主観で選ぶ審査員特別賞には 近岡令さんの‘Loophole’を選びました。
エレガントな作品で、じっとみつめると羽のように飛んでいきそうです。
国際ガラス展の本審査に参加でき光栄です。
ボーディル・ブスク・ラーセン
- ガラス評論家
- ヘンペルガラス美術館館長
- 前デンマークデザインミュージアム館長
まず、「国際ガラス展・金沢2013」の本審査の審査員という貴重な機会をいただいたことにお礼を申し上げます。本審査とシンポジウムから多くを学びました。本審査のために作品が並んだ部屋に入った瞬間を忘れません。世界各国から送られ、審査を待っている作品の美しさと多様性に出会い、感動しました。
受賞作品を選ぶのは困難な仕事になるだろうと、すぐに分かりました。しかし、きっと刺激的な経験だろうとも思いました。そして実際に刺激的な経験となりました。特に、日本のアーティストの作品がすばらしく、私が感激したことを強調したいと思います。
受賞作品は そのすばらしい日本の作品群の中から選ばれるだろうと確信しました。
すべての作品を見てまわり、その技術や芸術性や作品の魂にふれるのは、魅力的で、心ゆさぶられる旅のようでした。本審査の報告にもあるように、全体として作品の質は高く、特に受賞作品はすばらしいものです。
欧州デンマークから審査に参りましたので、デンマークのアーティストの5作品がスライド審査を通ったことをうれしく思いました。同時に今後の「国際ガラス展金沢」に、世界中の国と地域から多くの作品が応募されるように祈っています。
ガラス作家たちにとって、国際コンペに参加するのは貴重な機会です。この国際ガラス展には石川県、金沢市、そのほか多くの人々が関わり、グラスアートの未来を語るにふさわしい 忘れがたい「国際ガラス展・金沢2013」となりました。
心からお祝い申し上げます。
横山 尚人
- ガラス造形家
今回、大賞と金賞に決まった二つの作品に、最初から票が集まり、数有る秀作の中からその二点がクローズアップされた感があります。互いに引けを取らない、表現の異なる対照的なこの二つの大作の対峙に、世界のガラスシーンの今を垣間見る思いがしました。大賞に選ばれた 姜 旻杏の 「Shade of Emotion」 は、情緒的な美しさなどといったものには全く関心を示さず、ひたすら自分の造形を押し進めようとする作者の強い気概を感じさせます。野性的な生命感を放出して、見る者の心をわしづかみにする、そんな強烈な独自の表現がこの作品を大賞に押し上げました。一方、金賞に選ばれた 塚田美登里の 「光華」 は、器の形ながら器を超越する現代ガラスの強い光を放っています。概念的な器のスケールを超えた堂々たる大きさがこの作品に一段と創作性を持たせています。繊細で伸び伸びとしたカットによる美しい表面表現は日本美術の流れに繋がっています。彫刻的な存在感と工芸的な美しさを併せ持つ作品で、日本生まれの現代ガラスの一つの典型を示しているようにも思われます。銀賞に選ばれた ダム・ステファンの 「My Parallel Biology」は、完成度の高い技術と清々しい表現で、リアルな海の生物を芸術に昇華させた魅力的な作品です。同じく銀賞に選ばれた 金 儁龍の「Sunset in the Wave」は、荒く大きなえぐりの手法による、器のフォルムをベースとした彫刻的な作品です。審査員特別賞・横山尚人賞には 上野ツカサの「海碧絣―水面と光―」を選びました。確かなテクニックによる精緻な織目模様が美しい作品です。又、その平面表現の良さを生かした新たな展開をイメージさせる作品でもあります。
今回も、審査員同士大いにディスカッションし、充実した審査をすることが出来て良かったと思っています。