講評会
質疑応答、閉会
津守 ───── 今の時代において、表現や技術という点と社会との関わりという点で、今後、どういうことが作家に求められていくと思われるか、それぞれの審査員の方にお聞きしたいと思います。
ラーセン ───── とても大切な質問だと思います。図らずも実は昨日、全ての賞が決まった後の全体コメントでも申し上げたのですが、前回の国際ガラス展と比べて、もちろん素晴らしい作品が多いのですが、違いとして強い社会的・政治的なメッセージや表現が今回はあまり感じられませんでした。もちろん、どの作品もいかようにも解釈できます。しかし、アーティスト、作り手が作品に込めた強い意思をどうしても伝えたいという時、それをうまく伝える方法、もちろんそのクオリティも高くなくてはいけないのですが、そういう強い思いを感じる作品が今回はなくて寂しいと思っていました。
武田 ───── ありがとうございます。社会や時代との関わりという意味で、作家はどういう姿勢で物を作っていくかということでいいのですか。今、ラーセンさんは、できればそういう姿勢で作られた作品がもう少し多ければ良かったかなという感想を持たれたということですね。
ゾリチャックさんから、今のご質問に対して何かコメントはありますか。
ゾリチャック ───── 私にとっては、どういうアプローチをしても、どういうコンセプトを主張しても、本当に自分がそれを強く信じているなら、どの時代でも受け入れられ、認められる価値があると思います。大切なのはアイデア、コンセプトです。そして、作家の思考や精神の中に一番重要なことがあると思います。使う色や透明さ、技術よりも、アイデアというか、作家のコンセプトが一番重要だと思います。技術自体は大事なものです。技術があり、設備があり、大きなアトリエで制作できて、アシスタントも付いているなら、もちろん簡単です。しかし、そういった全てのものよりもアイデアです。
また、いろいろな人が既に出来上がったものを真似て作るのですが、まずは自分自身の発想です。各作家に小さなアイデア、考えがあると思います。それを強く信じて、自分のペースで進んでいけば、良い作品になるのではないかと思います。
武田 ───── ありがとうございます。素晴らしいコメントだったと思います。
ジェイ・マスラーさんが1982年の世界現代ガラス展で賞を取られた時の作品は「City Scape(街景)」というもので、真っ赤なボウルの上の方がギザギザになっていて、グレー調のペイントがされていました。その後のマスラーさんの作品にも感じていたのですが、その作品には恐らくその時代やニューヨークなどの何か社会的なメッセージが非常に込められていたと思います。
そこで、作家の制作における社会的なメッセージ性と表現との関係についてどう思われているか、ジェイ・マスラーさんにお尋ねしたいと思います。
マスラー ─────「City Scape(街景)」は海の風景を表しています。ほとんどが赤い丸で、上の方が少し黒いという作品でした。赤い部分は人間の怒りを、黒い部分は疎外感を表現しています。その作品に込められた私の政治的・社会的な意図としては、この世の中にはいろいろな生き方があるけれども、落ち込む罠のようなものもたくさんあるということを表現したかったのです。
当時は1980年代で私も若く、本当にたくさん勉強していましたし、いろいろな道を試していました。何度も繰り返し、いろいろな技術を練習しました。その過程において、時には意図的に政治的・社会的な要素を含めたこともありますが、個人的に自分は非常に平和的な人物だと思っています。今はあの頃から比べて、当たり前ですが、年齢も重ねてきてますます穏やかになり、最近は意図的に何か政治的なメッセージを加えることはあまりなくなったと思っています。
武田 ───── ありがとうございました。そのようなお答えでよろしいでしょうか。
ゾリチャックさんの発言で思い出したのですが、昨日の審査では破損した作品が2〜3点あり、それをどうするかについて審査員全員で話し合いました。その時にゾリチャックさんは非常に明快で、破損したからといってその作品を評価するにおいて何の障害でもない、つまり壊れてもどうということはないとおっしゃっていました。技術的にミスをしたからといってどうということはない、大事なのはそういうことではないと一生懸命おっしゃっていたように思います。
それは恐らく今日のお話にもあったのではないでしょうか。技術も大事ですし、いろいろ大事なことがあるのですが、一番大事なのは、何をどう表現して、今という時代の自分にとってどういう表現が一番適切であるかということです。それは作家自身が探していくものであって、第三者的なものでもなければ、客観的なものでもないということを、皆さんはおっしゃっているのだと思います。
マスラーさんも今は大変穏やかになられたのですが、お若い頃は本当に過激で、激しい思いがそのまま作品にぶつかったような作品を作られていました。「City Scape(街景)」も作品自体はただのツルンとしたボウルだけですが、その中に思いや時代など、いろいろなものが注ぎ込まれていたと思います。
時間を過ぎましたので、皆さんからのコメントを頂くという私の仕事は終わらせて頂きます。どうもありがとうございました。
藤原 ───── どうもありがとうございました。先生方には大変長時間にわたり、作品の講評や示唆に富んだご意見等を賜りまして、誠にありがとうございました。そして、大変お疲れさまでした。
本日の国際ガラス展の展覧会については、お手元の資料にもありますように、今年の 10 月 30 日から 11 月 11 日まで金沢の広坂にある石川県政記念しいのき迎賓館において開催します。また、12 月 7 日から年明け 2 月 16 日までは七尾市にある石川県能登島ガラス美術館において巡回展も開催しますので、皆様のご来場をお待ちしています。
それでは、以上をもって「国際ガラス展・金沢 2019」の審査結果発表ならびに講評会を終了します。最後に、審査員を務めて頂いた 5 名の先生方に今一度、盛大な拍手をお願いします。どうもありがとうございました。