講評会
奨励賞受賞作品について(1/2)
武田 ───── ありがとうございます。次に、奨励賞に移ります。
まずはイーダ・ヴィエトさんの作品について、藤田さんからお願いします。2 点並んでいますが、高さ 32 cm、幅 24 cm、厚さ14 cm で、少しずつ違うだけでほぼ同じような大きさです。
藤田 ───── 3 年前のこの展覧会をご覧になった方は覚えていると思うのですが、ヴィエトさんはデンマークの方で、前回もこのシリーズで受賞されています。前回はもっと縦の線が強く、枝を組んだような形の作品を出品されていました。今回はそれをまた変形させたというか、二つに折り曲げて、銅線のワイヤーの動きを際立たせるような作品に仕上げています。
技法を拝見すると、吹きガラスとフュージングとスランピングと書いてあるので、この一本一本の枝のようなものを吹いて作って、それを束ね、電気炉の中で曲げて、このような形態にしているのだと思います。前回はそれほどワイヤーが目立たなかったのですが、今回はワイヤーをたくさん使って流れるような形にして、より生命感、躍動感のようなものを強調させているのではないかと思います。このワイヤーの部分が非常に効いている作品だと思いました。
私がコメントすると前回と比較した形になってしまうのですが、さらに今までの作品を進化させ、トライしていく姿勢には共感を覚えます。審査員のラーセンさんはデンマークの方なので、昨日、お聞きしたところ、この作家のイーダ・ヴィエトさんは日本にも留学経験がおありで、日本の布や紐の結び目の形態に大変興味を持っており、そこから触発されている部分が大きいのではないだろうかとおっしゃっていました。
武田 ───── 続いての奨励賞は、日本の作家の若色正太さんの作品です。サイズは高さ 13 cm、長さ 62 cm、幅 16 cm です。ゾリチャックさん、お願いします。
ゾリチャック ───── この作品は形態がとても美しく、見ていると、人間の本質や性(さが)も感じられると思います。この作品はいろいろな部分から出来上がったもので、異なる部分を溶かすことによってこのような形が出来上がったのですが、その組み合わせの仕方は、完全に融合するだけではなくて所々に未完成のところが見えて、そこがとても面白いと思いました。
日本の漁師がいろいろな道具を持って海へ出掛け、仕事をしながら、旅をしながら、あちらこちらにいろいろなものを落としたり、残したり、散らしたり、そのような行動を思い出させる作品です。
全体的に柔らかい感じも、とても美しいと思いました。原則として作品に手を触れることは出来ないのですが、特にこの作品については手で触れて感じてほしいと思います。その表面はすごく柔らかく、赤ちゃんの肌のような感じがしました。作品が展示されたら、本物をぜひ見に来てください。ありがとうございました。
武田 ───── 続いては、日本の作家の石見麻衣子さんの作品です。黒い背景に留められたガラスです。高さと幅は同じ105cmと大きく、厚みは6cmと薄い作品です。これについて、引き続きゾリチャックさんにお願いします。
ゾリチャック ───── あらゆる人間の行動や、制作活動も含めた創造には、いろいろな力が同時に働いていると思います。日常生活の中でも、そのように考えられると思います。
この作品は生命の始まりという感じがします。スピード感もあり、動きというか、一つの大きなダイナミックさがあり、また、中央部はブラックホールにも見えます。ブラックホールではあらゆる物がなくなると言われています。ただ、その周りでいろいろな物が動いているので、なくなる物があると同時に、その近くには新しい物が生まれるだろうと思います。周りに新しい物が生まれると、新しい人生というか、新しい生き物も生まれるでしょう。時間のダイナミックさや動きを表現する作品として、素晴らしいと思います。どうもありがとうございました。