(武田) 現在この会場には大賞、第10回展記念特別賞、
金賞受賞の実作品3点が
並んでいるだけですが、他の受
賞作品については映像で皆さんにご紹介いたします。
それらについての感想、講評などは各審査員の方々にあ
らかじめ割り当てをしていますので、これからお願い
しようと思います。まずグランプリの作品から金賞ま
での作品についてコメントを頂きます。
まず、グランプリの作品についてですが、題名が
「SECTION」、デンマークの作家で、
Lene Bodkerさん、
女性です。このコメントにつきましては、フィリップ・
マイヤーさん、
お願い致します。
(マイヤー) 先ほど武田先生から昨日どのようなプロ
セスでいろいろな賞が選ばれたのかという説明があり
ました。審査員が5人いて、それぞれが違った経験をこ
れまでにしてきて、しかも文化的な背景も3カ国か4カ
国か、とにかく違った国の背景があるわけです。そう
いう人たちが集まって意見を交換しながら大切な賞を
決めていくということはとても大変な作業です。
賞と
は、作家にとって生活の一部であり、それによって勇
気づけられたりまたがっかりさせられたりするのです。
一つ、私はこの国際ガラス展に出品してくださった
アーティストの方々に申し上げたいことがあります。今
回、受賞されたにしろ、受賞されなかったにしろ、こ
のスライド審査を通って展覧会に作品が並べられると
いうことに対して、非常に誇りに思ってほしいという
ことです。今回、私が審査員を務めるのは3回目になり
ますが、これまでの中で作品のレベルが一番高いこと
に対して満足しています。多分一人ひとりのアーティ
ストが、こういった国際コンペの審査に対しどのよう
な作品を出せばいいのか、どのようなものがプロの仕
事であるのか、どのように自分をアピールするかを理
解すれば、うまくなります。
大賞は一つの作品にしか授賞できませんので、選ぶ
のはとても難しかったです。実は私は三つの作品に対
して10点のカードを付け、ほかの審査員の点数と合計
して25点をとった五つの作品のどれが大賞を取っても
不思議ではないと感じていました。疑いもなくどれも
が大賞の力を持っていたのですが、実は大賞を取った
この黒い作品を一番強く推していたのは私なのです。も
っと近くへ寄って感じていただきたいのですが、私が
この作品を見て感じた思い、この作品が語り掛けてく
る力強さ、性格を皆さんにも感じていただきたいと思
います。
一つずつの作品に対して、私は自分の中に、ここだ
けはしっかり見ようと思っている標準点を持っていま
す。それは、まずフォルムです。
どんなフォルムをしているのか。次にはアイデア(発想)、どんなインスピ
レーション、どんな考え方からこの作品が生まれてき
たのか。そしてエクセキューション、どんな技術を使
っているのか。そして、オリジナリティーがあるかど
うか。この4点をきちんと標準として見ることにしてい
ます。順序はこの通りでなくてもよいのです。
みんなに「マイヤーさんはビジュアルな人ですね」と
いつも言われるのですが、私が今回金沢に来て全作品
を見て、そしてこの作品を見て、作品と対峙するとき
には自分の感情的な反応(emotional response)をとて
も大事にしていますが、この作品は私の性格にぴった
りと来ました。今回5人の審査員がいましたが、3人が
ガラス造形家、1人が評論家、1人がキュレーターと、背
景も違うし、出身の国の文化も違います。そのような
人々が決めていくという難しさの中で、私はこの作品
が持つアイデアにも引かれています。このボディ、そ
してフォルム。
とても自然なフォルムをしています。作
者はこれを樹木の太い幹というイメージで作ったと書
いています。自然とのかかわり合いから作ってきた。
そ
ういったものが私の自分の日々の生活、暮らしぶりに
ぴったり来ました。何か自分の体にも心にも語り掛け
てくるものがあります。
また、その質の高さ。もしも、
いいよと言われてこの表面に手を触れていただくと、木
肌からまるで自然の中の木の生命が皆さんの手を通じ
て皆さんの体の中に入っていくような、そんな思いが
する作品です。ですから私はこれを大賞に選びました。
このことに感謝しています。
(武田) ありがとうございます。
次は、第10回展記念特別賞です。富山県の小島さん
の作品が受賞しました。
これについてはハルツバさん
にお願いしたいと思います。
(ハルツバ) この第10回展記念特別賞に関しては、
5人の審査員が皆さんすぐに
賛成してくれました。これ
こそ10回展記念の賞にふさわしいのではないかと
私が
一言いった時には、皆さん「そうだ、そうだ」という
感じで本当にすぐに決まりました。小島有香子さんの
スカルプチャーっぽい作品です。
これを第10回展記念特別賞に決めた理由は二つあり
ます。
まず一つは、この作品が表現しているものは日
本の工芸の伝統のようなものであり、
それを支える技
術は完璧だということです。
2番目の理由は、この作品全体から日本の文化、日本の歴史、また同時に日本の
現代ガラスアートというものが語り掛けてくるという
ことです。
これは個人的な意見ですが、私はこのガラスの作品
の中にまるで俳句が秘められて
いるように感じていま
す。見ていると、月や、山からわいてくる霧、水、雲、
そういった日本の風景、日本の空気、日本の雰囲気が
感じられました。
(武田) ありがとうございます。
では、次に金賞受賞作品についてコメントを頂きま
す。現在富山市のガラス造形研究所で
客員教授をされ
ているチェコのパヴェル・トルンカさんの作品につい
てです。クリステンセンさん、コメントをお願いします。
(クリステンセン) 先ほどもありましたように、最初
に25点という高得点を取った
作品の4つはフォルムが非
常にシンプルなものでした。これは実を言うと
今日の
ガラスアートの傾向なのです。
長い間、非常に多くの異なったものが作られてきて、
中にはワイルドなもの
があったり、ちょっと人を驚かせるようなものがあっ
たりしたのですが、また今日ではシンプルなものに戻
っていっています。
それが私にとっては非常にうれし
いことです。この金賞を取った作品に移る前に、大賞
を取った黒い作品についてもちょっとだけお話しさせ
てください。
この作品の横の部分は、実はガラスなの
に繊細なハンマーを使って注意深く丁寧に仕上げてあ
ります。この辺りを私は非常に評価しています。
次に金賞の作品にいきたいと思います。この作家は
チェコのガラス作家で、ここ3年間、日本に滞在して作
品を作っています。形から見ると、これ以上シンプル
なものはありません。
アイデアは、この作者の性格も
あるのでしょう、とても上手にガラスの持つ特徴を生
かしています。つまり、外からこの作品を見ると中が
透けて見える。そして中にあるいろいろな色が見る者
に語り掛けてくる。その背景はインドの哲学やヨガら
しい。
非常に美しい三作品のひとつ、この作品が金賞
に選ばれうれしいです。
(武田) ありがとうございます。
これでベスト3の大賞、記念特別賞、金賞まで終了し
ました。次に銀賞4点の作品についてコメントをお願い
したいと思います。
まず初めは、金賞候補で争っていたのですが、最終
的に残念ながら銀賞になった石川県金沢市の塚田美登
里さんの作品について、
マイヤーさんにコメントをお
願いします。
(マイヤー) この作品は、黒い作品、四角い作品と三
つ並べて、5人の審査員たちが、
どれが大賞、金賞を取
っても不思議ではないということで、最後の最後まで
ディスカッションしたのですが、できれば金賞その1、
金賞その2とならないものかともめていた作品です。
とても美しい表現ゆたかな作品で、技術的にも非常に美
しく作られています。
内部は複雑で、フォルムはとて
も豊かであり、見ていると何か日本の布地のようにも
見えます。そして見る場所によって、時には透明に見
え、時にはいろいろな模様に見える。
そのようなアイ
デアは非常にエキサイティングです。光が射せばまた
違うふうに
見えるでしょうし、光の方向と量によって
全く違ったものに見え、ミステリーのような作品です。
質が高く、こういった幾何学的なものは普通は固く見
えるものなのですが、
落ち着いた色が作品に柔らかみを
与えています。まるで三次元の絵のようだと思います。
(武田) ありがとうございます。
次に銀賞、ドイツの作家の「THE BLACK」という
作品についてはハルツバさん、コメントをお願いします。
(ハルツバ) これを作った作家はドイツの女性の作家
です。もともとガラス作家ではなく、
壁にインスタレ
ーションするというような作品を多く作ってきたので
す。1年前にドイツの
コーブルクという所で有名なガラ
スのコンペがあったのですが、その時に大賞を取って
います。
そのときの作品はよく似たこの丸い平面のも
のが三つつながった作品でした。
この作品の効果としては、遠くから見ると、これがガラスで作ったものと
はとても見えません。
まるで鳥の羽がたくさんくっつ
いているように見えます。だんだん近づいて初めてガ
ラスの小片が
たくさんバックグラウンドにのり付けさ
れているのだと分かってくる。このサプライズも
非常
に面白いものだと思いました。ドイツで賞をとってい
るので今回はどうかなとの意見も
あったのですが、こ
の作品は25点を得て、銀賞に値するとの理由で選ばれ
ました。
(武田) ありがとうございます。
その作品は1メートル四方ぐらいの非常に大きいものでして、今、説明が
ありましたように周辺に
グラデーションが付いていま
すが、これは全部、本当に触るだけで壊れそうな薄い
ガラスのチップが
限りなく無限に接着されているもの
でした。それが遠くから見ると本当に羽毛のようにも
見えるという
非常に特殊な作品でした。
それでは、次に参ります。銀賞受賞の神奈川県の家
住さんの作品です。これにつきましては
横山さんから
お願いします。
(横山) この家住君の作品を見た時に、まず「ああ、
立派な作品だな」と思いました。
僕はこれはグランプ
リでもいいかなと思ったほどです。
曲面がずっとつながる立体をものすごくきれいに磨き上げているのです
が、この優れた技術には凄味さえ感じます。乱反射が
少しうるさく感じ、フォルムの美しさの足を
ちょっと
引っ張っているかなという感じがするので、今後の課
題にしてほしいと思いました。
(武田) ありがとうございます。
銀賞の最後になりますが、富山県からの出品の竹本
さんの作品「ツヅレオリ」について、同じく横山さん
からお願いします。
(横山) この作品は抽象絵画を鑑賞するような思いに
させる、いい作品だと思います。
黒い色と黄色い色で、一見ちょっと汚れ色なのですが、何度も何度も見て、
見
るたびにますます「美しいなあ」と思わせる作品です。
金属の台が見えませんが、これを立ててあるスタンド
も作品のうちです。
この台も形、色、収まり、ディテ
ールと言うのでしょうか、そのどれも文句なく、僕は
この作者はなかなかのセンスの持ち主ではないかと見
ました。