(武田) 以上で奨励賞受賞作品については終わりまし
た。賞の最後になりますが、審査員特別賞が5点ありま
す。
これについても講評を頂くことになっております
ので、恐れ入りますが審査員の先生方には御自分が選
ばれた作品について
それぞれ一言ずつコメントをお願
いしたいと思います。
最初に、フィリップ・マイヤーさんお願いします。
(マイヤー) 私の賞と書いてあれば、「えっ、マイヤ
ーさんが
こんなものを選んだの?」と思うでしょうし、
また何も書いてなかったら
絶対私が選んだとは思われ
ないようなものを
選びました。というのも、私の美的
センスからはちょっと懸け離れているからです。
もち
ろんこの作品は素晴らしいです。
でも、いろいろな賞
に値するというようなことではないので、
いろいろな
賞には私は投票しないと思います。
ただし、自分の賞
は非常に個人的なもので、
このスウェーデンの女性に
あげたかったのです。
この方は長年吹きガラスで生計を立ててきた方で、
以前にしばらく北海道で
レジデントをしています。
「FLOWER POWER(花の力)」というタイトルです。
私自身花の力を信じています。花壇も好きだし、庭仕
事も好きです。
作品の中に花というテーマを入れ込ん
だというところに引かれて、本当に個人的に、
そして彼
女の人生も思いながら私の賞を彼女にあげて幸せです。
(武田) 次はクリステンセンさんが選ばれた作品で、 富山県から出品された松尾一朝さんの「小箱」です。お 願いします。
(クリステンセン) この「小箱」を自分の個人的な賞
に選ばせていただきました。
金沢で行われている国際
ガラス展の中で、いいなと思うことが二つあります。
ま
ず、審査員たちが本当に真剣に大切な賞を選んでいき、
その過程を皆さんに聞いていただいて、どのように選
ばれたのか、
どういうことが今ガラス・シーンで行わ
れているのかというシンポジウムをする。
これが一つ
です。もう一つは、すごく意見を戦わせた審査の後に、
それぞれの審査員がその賞とは全く懸け離れた所で個
人的な好みで一人一人の賞を
選んでいくということで
す。このようなチャンスがある国際ガラス展は珍しい
ので、
この点を私は非常に高く評価しています。
ガラスというものにも二つの側面があります。一つ
は、
アーティストの感性を表現する作品です。
もう一
つは、何千年もの前から匠の技がいくつも作ってきた
非常に細やかな作品です。
この二つがあることも非常
にいいと思います。
この作品はそういった匠の技が支えるとても美しい
フォルムの小さな箱で、技術的にも昔からある技術を
幾つも幾つも重ねています。
この作品は多分、美術館
には飾られないだろうと思うのですが、自分のうちに
置いておきたいような作品だと思って選びました。
(武田) 次に、イジィ・ハルツバさんが選ばれた作品 についてお願いします。
(ハルツバ) この作品はドイツの有名なグラス・エン
グレービングの作家である
クリスチャン・シュミット
さんの作品です。この作者は金沢の国際ガラス展で以
前に
賞をもらっていますが、私はどうしてもこの作品
を選びたかったのです。
私自身エングレービングを教
えていますし、このエングレービングのテクニックは、
吹きガラスやほかのテクニックと競争していくのがと
ても難しいと思います。このエングレービングが
作品
をコンテンポラリーに見せています。これまでの彼の
作品よりもこの作品は非常に自由です。
実際こまかい
エングレービングはまるでガラスに描かれた絵のよう
です。
(武田) ありがとうございます。
それでは、次が富山から出品された佐野さんの作品
について、横山審査員からお願いします。
(横山) 僕は佐野さんの作品を選びました。まず、表
現の美しさを感じました。
形は何ということはない鉢
なのですが、色の選び方、色面の配置、
それからよく
見ると現物は、
ちょっと特殊な技術ではないかと思い
ましたが、微妙な表現を作り出す工夫、
そんなものが
相まった、センスのいいデザイン的な表現だと思いま
す。
この人の作品は何度か見ていますが、その都度ど
こか新しい表現をやってくるのですね。
そういうもの
を感じさせる。そこがいいと思って僕は評価しました。
(武田) ありがとうございます。
審査員特別賞の最後になりますが、私の選んだ作品
です。神奈川県から出品の奥野さんの作品です。
これ
は非常に大きな作品ですが、まずタイトルに非常に魅
力を感じました。「間(ま)」というタイトル、
これは
特に日本の伝統的な美意識といいましょうか、芸能、あ
るいは芸術全般にわたって非常に重要な
美意識の一つ
だと思います。時間、空間、精神的なものを全部含め
て、
日本の伝統文化にはその間というものが生かされ
ている。
茶の湯にもあるでしょうし、生け花にもある
でしょうし、むろん平面絵画にもあるし、彫刻にもあ
る。
そういう間というものをタイトルに取り上げたと
いう着想に、まず非常に興味を持ちました。
作品については、これまでの彼女の幾つかの作品を
私は見ていましたが、非常に不定形なもの、つまり、
し
っかりした決定的なフォルムというものではなくて、常
に流動的なアンフォルメル風なもの、
その中に透明、不
透明のガラス面の工夫によって、浮遊するようなガラ
スの立体が2~3個入っています。
これは正面と側面と
裏側とそれぞれ表情が違うのですが、とにかく非常に
揺れ動く精神、
あるいは魂の造形化といいましょうか、
そういうものがあると感じました。そうした表現のた
めにガラスという
素材をどのように駆使していくか、今
後も楽しみです。何か新しい時代の一つの表現様式を
確立する方向かもしれないと私は思いました。
(武田) では、次に審査に当たっての講評を改めて審
査員の皆さんに率直にお話しいただき、
それから皆さ
んと質疑応答をしたいと思います。
できればあまり長
くならないようにお願いします。お一人ずつ、全員で
す。マイヤーさんからお願いします
(マイヤー) 私たちの審査は非常に誠実に、また注意
深く評価して、一つ一つの作品を見ていきました。
そ
して、一つ一つが語り掛けてくるものを一生懸命理解
しようとしました。
5人の審査員はすべて非常に公平で
した。私がこの5人の審査員の中の一人であることを誇
りに思っています。
(武田) ありがとうございます。次はクリステンセン さん、お願いします。
(クリステンセン) 現在、何千人ものガラス作家が世
界中で活躍しています。その中で現代ガラスをリード
している
作家をみつけるのはほぼ不可能です。このよ
うな困難な状況に対して、
金沢で行われている国際ガ
ラス展が10回目を数えたということは、長年の経験が
蓄積された、ということです。
スライド審査では、世界のグラスシーンを理解する
知識のある審査員が必要でしょう。この国際ガラス展
には、非常に素晴しい作家が
かかわってきました。私
たちが授賞作品を選んだのですが満足していただける
とうれしいです。
さらに多くのガラス作家が出品する
ことを願っています。
(武田) ありがとうございます。次はハルツバさん、 お願いします。
(ハルツバ) 世界中のガラス作家にとって、このよう
な世界でいま一つと言われている国際公募展を金沢で
開くということは
とても大切だと思います。それがチ
ェコでもなく、アメリカでもなく、日本の金沢という
所で開かれているということに非常に意義があると思
います。
また、金沢市、石川県が地方の行政としてこ
の国際ガラス展を続けていきたいとおっしゃっていた
ことも
非常に印象に残っていますし、これから続けて
いくことこそ大切だと思います。金沢、そして近くの
富山、この二つの北陸の地が今ガラスの
中心地になっ
ているという成功に対して、心からお祝いを申し上げ
たいと思います。
(武田) ありがとうございます。次に横山審査員、お 願いします。
(横山) まず、全体的にいい作品がたくさん集まった
なというのが第一印象です。そして、日本の作品はい
いですね。
みんなやはり力作が出ています。僕がざっ
と集計してみたら、海外より日本の方をちょっと多め
に選んでいます。
優劣付け難く苦労しましたが、
ディ
スカッションが非常に良かったです。非常に評価に客
観性が出てきました。
ちょっと個人的なことですが、僕もガラスを作る人
間です。常々考えていることは、誰のものでもない、
自
分独特の特徴あるものを作り出すのにどうしたらいい
かということです。
それから、僕が作ったものを見る
人に語り掛けたいという気持ちで作っています。
ピカ
ソも、モーツァルトも、彼らの作品のどこを切っても
ピカソであり、モーツァルトです。これは、それぞれ
彼らの感性が、
そして人間性がにじみ出てきています。
僕も自分の作品がそうなりたいものだと思いながら作
っています。
そして、今回の審査に当たっては、雑念を払う、そ
して僕の心にまっさらなフィルムを入れて見る。
そし
て、ぱっと何か感光したものを選びました。
そういう
視点でずっと見ました。そんなところでしょうか。
(武田) ありがとうございます。
最後に私自身の感想を少し述べておきますが、ほと
んど審査員の皆さんがおっしゃった
通りのことを感じ
ました。全体の印象として非常にレベルがアップし、審
査そのものは相当充実していて、
また同時になかなか
難しかった、というのが正直な感想です。
今、横山審査員がおっしゃっていましたが、審査員
全体としては、審査のコンセプトといいましょうか、ス
タンスといいましょうか、
それをオリジナリティー、独
創性の有無としていたところがあります。オリジナリ
ティーにはテーマ、
イメージ、技法、あらゆることが
全部含まれると思いますが、それらが新しい表現世界
を見つけていく。
審査する側としては、そういうもの
を見るのは非常に胸がわくわくするというか、
そうい
うものを期待して審査されていたようです。今回はデ
ィスカッションそのものが審査員相互の意識といいま
しょうか、
評価の起点といいましょうか、その接点を
見つけ出すのに非常に有効な手段であったように思い
ます。今度の受賞作品について、
それぞれ個人的な意
見を言えばむろん切りがないのですが、結果的には最
適な作品が選ばれ、全員が納得できた有意義な審査だ
った、
と皆さんおっしゃっていました。ちなみにその
ディスカッションが極めて有効に働いたのは、的確な
通訳でしきってくれた
早川芳子さんの力量のおかげで
あったことを一言付け加えておきます。
さて、審査員の皆さんからもっと深いコメントを頂
きたかったのですが、時間の関係で短いものと
なって
しまい申し訳ありませんでした。この後は、本日おい
での皆さんとの質疑応答に入ります。
審査員の先生ど
なたにでも、自由に率直に質問していただきたく思い
ます。
受賞作品についてもそうですし、それ以外のガ
ラスの事についてももちろんのこと、結構です。