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審査講評(4)

銀賞作品の講評

古道, Ancient Road
古道
Ancient Road
H47×W35×D18
2016
Both Sides Now
Both Sides Now
H33×W31×D21
2016
Natural Lace
Natural Lace
H38×W62×D46
2016
存在の痕跡, Remains of the Day
存在の痕跡
Remains of the Day
H60×W59×D37
2016

武田 ───── 次に、銀賞です。こちらは4点あります。1点目は、富山在住の藤原寛太朗さんの「古道」です。これについてはゾリチャックさんにコメントをお願いします。

ゾリチャック ───── 素晴らしい作品だと思います。まるで過去と現在、そしてこれからやって来るであろう未来の、それぞれの記憶であるかのような気がしています。これを作っていくプロセス、少しずつ進歩していくもの、酸化させている時間の経過、そしてそれが酸化によって少しずつ浸食されていっているのではないかというイメージを、この作品から持ちました。

武田 ───── 2点目は、デンマークの作家であるIda, WIETH(イーダ・ヴィエト)さんの作品です。こちらに関しては、デンマークの美術館館長であるラーセンさんに講評をお願いします。

ラーセン ───── ありがとうございます。もちろん銀賞受賞者にデンマークの作家が選ばれたことは、とてもうれしく思います。
 デンマークのガラスシーンと日本のガラスシーンの間には、長い間の良好な関係があります。これまでに、日本から藤田潤さん、武田厚先生をはじめ、すばらしいガラス作家たちがデンマークを訪れています。
 この作家イーダ・ヴィエトさんは、デンマークおよびスウェーデンのデザインスクールにて教育を受け、ガラス専門家の弟子にもなっていました。エジンバラ美術大学にて修士号を取得。武蔵野美術大学の客員教授をずっと務めてきました。
 イーダ・ヴィエトさんは2011年から自分のスタジオを持ち、ワークショップを開いたり、デンマークのエベルトフトにある、デンマーク・ガラス美術館でもワークショップを開いています。最近イーダ・ヴィエトさんはガラスとセラミックを使った新しいタイプの作品を展開しています。2つの異なる素材、いくつものパイプ状のガラスとセラミックを組み合わせ、銅線で縛りつけ、結び目をつくっています。この結び目は、日本のさまざまな結ぶ技術に影響を受けています。この作家は、作品の材料に対し、すばらしい感性を持っています。マットな陶土と輝くガラスのパイプは際立っていますし、面白い効果を生み出しています。ガラスとセラミック両方の研究において、新しい成果に到達しています。
 この作品の題名は「Both Sides Now」です。この作家は、充実した関係をコンパクトに力強く作品に入れこんで、完全な姿を創り出しています。

 

武田 ───── 3点目は、塚田美登里さんの「Natural Lace」です。この作品については、カールソンさんに講評をお願いします。

カールソン ───── 塚田美登里さんの作品は、とても魅力的です。私たちがガラスをどのように見ているのか、どのように判断しているのか、どのようにガラスを進化させてきたのかを見つめる時、美的感覚や素朴な完璧さから離れて、ある意味、違った美学へと導かれることがあります。その美学のおかげで私たちは、自然が自分たちと関係を持つことや、自然の進化のプロセスと、どうかかわっていくのかなど、自然に対して答えることができるのです。そんな視点から、この作品と直接関係することのできるのは、作品の内部です。ざらざらした内部の表面は、必ずしも強さを見せているわけではありません。  この作品のタイトルの一部「レース」で、作者は、2つの物を表現しています。ある種の火山活動、つまり化学物質や鉱物の蒸発。自然そのものからではなく、ガラスのスタジオから発せられるある種の力。この両方を表現しています。ですから、泡がはじけたような、水泡のような内部は、作者の作品づくりでの大躍進となりました。以前は、この作者が違った方法で美をとらえていた作品を見てきました。この作品は美を追求していますが、少し違っています。
 作品のふちは、かたく、まるで子供のころ靴が小さすぎてかかとにできた靴ずれのようです。この作品の内部をのぞくと、人間のさまざまな状況との関連性も見えてきます。

 

武田 ───── ありがとうございます。これは非常に大きい作品で、幅が64cmあります。4点目は、津守秀憲さんの「存在の痕跡」です。この作品については、ラーセンさんに講評をお願いします。津守さんは会場にいらっしゃっていますが、お若い方です。おめでとうございます。

ラーセン ───── 銀賞の受賞者が、このシンポジウムに来てくださっています。うれしいことです。作品「存在の痕跡」は大きな作品です。高さが60cmあります。
 野心的で印象的な作品です。邪悪な感じがあるのに、有機的で、くり返されるフォルムは、時間を超越しています。作品から感じられるのは、石化していく過程、鳥の巣、蜂の巣、洞窟などです。作者は、ガラスと陶土を混ぜ合わせ、自分なりの素材を創り上げ、その素材を技術的にうまく使っています。そのため、ほかの有機的素材のように、ひび割れやふぞろいができています。作品は、素材の使い方や、ガラス制作とセラミックスを技術的にうまく組み合わせた点が、すばらしい実験となっています。この表現主義的彫刻を作りあげる時の、素材と技術の選び方が、すばらしいです。そのため、この作品は、時間を超越し、自然の法則にしばられている天空をも、超越しているように見えるのです。
 このような勇気ある、印象深い彫刻的芸術作品を創作した作者に、心からお祝いを申し上げます。

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