Discussion
審査講評(5)

奨励賞作品の講評

Calm
Calm
H30×W190×D10
2016
Structural Blue
Structural Blue
H37.5×W45.5×D45
2016
Page in History
Page in History
H57×W45×D18
2016
Chernobyl - Fukushima
Chernobyl - Fukushima
H25×W60×D32
2015
Echo from the Highland
Echo from the Highland
H15×W12×D10
2016
泉 3099, Fountain 3099
泉 3099
Fountain 3099
H26.8×W51×D51
2015

武田 ───── 次に、奨励賞です。6点をご紹介します。1点目は、小坂未央さんの「Calm」です。この作品については、カールソンさんに講評をお願いします。

カールソン ───── 小坂未央さんは、ホットワーク分野からの受賞者として、最初に紹介する作家です。ヒートを使ってきた作者もいれば、オーブンを使ってきた作者もいれば、スランピングやフュージング技術を使ってきた作者も多い中で、この作品がホットワークの最初の作品です。そして、実に力強い作品です。圧倒的なセグメントの数ゆえに力強いと同時に、力強いメッセージ性があります。作家が連続性やくり返しを使う場合、そこには必ず意図があります。この作者は、熟慮の末、微妙なくり返しを創り上げました。そして作品は視覚的になっています。さまざまな物質を蒸留している研究室のようでもあり、心が静まる音楽に私たちが耳を傾けている、その楽譜のようでもあります。この作品の題名「Calm」にぴったりです。あるいは、いろんなチャイムのメロディーのようでもあります。作品には、力強い彫刻的芸術性があります。展示の時、れんがの壁の前ではすばらしさが発揮できません。この作品の美しさと、イメージの強さを、引き出すことができません。実際のガラス展では、きっと、作品は壮観で、見る人と会話できるような展示になることでしょう。作品にそって動いていくと、さまざまな見え方が楽しめて、見る人も作品の動く一部になるでしょう。もう1つ別のメッセージ性の解釈としては、ドルに対しての円の為替レートの上下とも見えますし、新聞に掲載されている、株価の変動を示すチャートにも見えます。

武田 ───── この作品は、並ぶと全体で約2m近くあるという、非常に大きな作品でした。
 2点目は、神代良明さんの「Structural Blue」です。この作品については、ゾリチャックさんに講評をお願いします。

 

ゾリチャック ───── とても実験的な作品だと思います。この作品からは時の厚み、または時が私たちに与えてくれている記憶の厚みを感じます。それは何についての記憶かというと、私たちが暮らしている惑星である地球の記憶であったり、人間自身の記憶であったり、そのような記憶です。その積み重ねを感じています。

武田 ───── 日本人作家の受賞がずっと続いていますが、これは審査員全員の評価ですけれども、やはり内容的に日本の作品には良いものが非常に多いという実感です。
 3点目は、ラトビアのAnda, MUNKEVICA(アンダ・ムンケヴィカ)さんという女性作家の「Page in History」です。その作品については、ゾリチャックさんに講評をお願いします。

 

ゾリチャック ───── 移りゆく季節の中に、さまざまな景色が隠されています。そのさまざまな景色というのは皆さんの記憶の中では3次元だと思うのですが、それをフラットにしたような感じがします。過去には楽しい出来事をはじめ、いろいろな出来事がたくさんあったわけですが、その記憶が平面になった景色の中にたくさん映り込んでいるという印象を持ちました。

武田 ───── 4点目は、ベラルーシのPavel, VOINITSKI(パヴェル・ヴォイニトスキー)さんの「Chernobyl ― Fukushima」です。この作品については、ラーセンさんに講評をお願いします。

ラーセン ───── この感動的な作品は、ロシアとウクライナの近くにある国、ベラルーシからやってきました。パヴェル・ヴォイニトスキーさんによる作品のタイトルは「Chernobyl-Fukushima」です。この作品から、私たちは、痛みを伴って、世界で起きてしまった2つの大惨事に思いを馳せます。この出来事のため、罪のない人々は日々の暮らしを引き裂かれ、恐ろしい記憶や傷跡を、一生背負っていかなくてはなりません。スローブロウと混合テクニックを使った作品です。パヴェル・ヴォイニトスキーさんによるこの作品は、頭から血を流している一人の女性を表現しています。この女性は呼吸のためのチューブによって、ガスの充満したバブルとつながれています。この作品を見て私は大切なことを思い出しました。ガラスは、美や技術を表現する手段であるばかりではなく、人間の生や死について、ガラスという媒体を使って、人道的な、また政治的な発言もできるのだと。ガラスから彫られた作品によって、私たちは、危険や痛みや悲しみや怒りに寄りそうことができるのは、大切です。作者は、ガラスを素材として生かし、人間の感情を表現する手段としています。このような表現にガラスが使われるのも、大切なことです。

武田 ───── 5点目は、アメリカの杜蒙(ドゥ・メン)さんという女性作家の「Echo from the Highland」です。この作品については、カールソンさんに講評をお願いします。

カールソン ───── ドゥ・メンさんのこの作品はなかなか興味深いです。私たちは、日ごろ気に入ったものを手に入れ、集めます。時には子供の気持ちで、時には大人の気持ちで、また時には手に入れたものが貴重だという理由で、収集します。単に手に入れたものをポケットに入れ、理由もなく家へ持って帰ることもあります。でも多分、何か理由があるはずです。とにかく、しばらくはあなたの目にとまった物であったり、道すがら拾ってポケットに入れてしまった物であったり、時には、どうやってそれが自分のところにやってきたかが、分からないこともあります。この10個から12個のコンポーネントは、そんな行動を表しています。休暇の時に手に入れた小石、お兄ちゃんから盗んだコイン、友人のネックレスからこぼれた真珠の玉たち。もしかしたら何かほかの物かもしれません。どこかに生えていた植物が、風で裏庭に飛ばされてきたものかもしれません。そんな物たちは、素敵なコレクションであり、どこか詩的です。ある意味、ショートストーリーは、どんな言語であっても、言葉のコレクションであり、詩は、詩心が創りあげた物のコレクションです。このコンポーネントの作品は、物語性とストーリーテリングの感覚を内包しています。
 そして多分、とてもはっきりと言えるのは、コンポーネントたちが、すばらしく抽象的だということです。みなさんに宿題を出します。ポケットにいろんな物をためこむことを、早速、始めてください。それを組み合わせて、あなただけの芸術作品を作り上げるのです。

 

武田 ───── 奨励賞の最後の作品は、日本の磯谷晴弘さんの「泉3099」です。その作品については、藤田潤さんに講評をお願いします。

藤田 ───── 本日おみえの方は日本のガラス関係者の方々だと思うので、磯谷さんの名前や作品はよくご存じなのではないかと思います。2013年の国際ガラス展覧会でも、彼の作品は銀賞を受賞しています。今回も同じ技法、そして同じような溶解したガラスの塊で、重量は100kg近くあります。色の系統を変えてブルーにして、外側の模様にも調和の取れた色を使っています。
 磯谷さんは「泉」という一連のシリーズをもう何年も続けていらっしゃいますが、日本のガラス界において、もはやベテランと言っていい域に入っている方です。それでも常に新しいものに挑戦され、自分のポリシーを変えずに新しいものを求め続けている姿に非常に共感しました。他の審査員の方々とも意見を同一にしたと思います。そして、やはり私が一番新鮮だと思ったのは、新しいカラーで清涼感あふれる泉を制作したことでした。

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