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審査講評(6)

審査員特別賞作品の講評

Voyage of Memories
Voyage of Memories
H45×W52×D32
2016
Barracks 赤い窓, Barracks Red Windows
Barracks 赤い窓
Barracks Red Windows
H105×W82×D22
2016
Ghostly Memories from My Time as an Air Hostess
Ghostly Memories from My Time as an Air Hostess
H10×W25×D18
2014
フォルム2016, Form 2016
フォルム2016
Form 2016
H32×W58×D34
2016
あなたは一本のバナナ, It is You!!
あなたは一本のバナナ
It is You!!
H54×W57×D57
2016

武田 ───── 以上をもちまして、奨励賞までの講評が終わりました。いろいろなタイプの作品が選ばれました。この後、5名の審査員がそれぞれ「ぜひこの作品を」と選んだ作品に審査員特別賞が与えられます。これについてコメントを頂き、その後、皆さんから率直に聞いておきたいご質問、つけておきたい注文、投げ掛けておきたい疑問等があれば、どんなことでもお話を承りたいと思います。審査員の先生方は皆さんのそのような質問を待っているようですから、ぜひお願いします。
 まず、ラーセンさんの審査員特別賞を受賞したのは、日本の大野和美さんの「Voyage of Memories」です。

 

ラーセン ───── 審査員たちが主な受賞作品をすべて選んだ後に、審査員自身が、自分の心をとらえた作品を自分の賞に選ぶことができるのは、何てすてきな考えなのでしょう。とても残念なことに、すべての作品が賞を取ることはできません。でも少なくとも、審査の終わりに、審査員は一人の個人になるチャンスがあるのです。
 ボーディル・ブスク・ラーセン賞に、私は、22才の若い作家の作品を選びました。タイトルは「Voyage of Memories」です。私がこの作品に出会った時、その遊び心と詩心と技術に魅かれて、すぐに恋に落ちてしまいました。密封したガラスのフォルムの中に、大好きだったおもちゃの記憶を閉じ込める、というアイディアが気に入りました。ガラスのフォルムは、記憶と呼ばれる物たちを永久に中に閉じ込めておくことでしょう。少なくともフォルムがこわれるまでは。でもそんなことは起きません。タイトルが示しているように、この作品の意図は、この素敵な小さなガラスのバブルを、プロペラの助けを借りて宇宙に飛ばすことかもしれません。しかし今は、3つのちゃんとした足がついていて、ここ金沢にしっかりと根を下ろしています。この若い作家は、これまでに、さまざまな技術を使ってきました。技術力にすぐれ、才能あふれるガラス作家として、これからきっと活躍していくことでしょう。

 

武田 ───── ヤン・ゾリチャックさんの審査員特別賞を受賞したのは、日本の岸本耕平さんの「Barracks 赤い窓」です。

ゾリチャック ───── この素晴らしい作品に、私は作者の情熱を感じました。表現しているものは一体何なのでしょうか。人間の物語を語っているのですが、これはポジティブなのか、それともネガティブなのかという、大きな疑問を投げ掛けてくれる作品です。

武田 ───── カールソンさんの審査員特別賞を受賞したのは、アルゼンチンの女性作家であるDina, PRIESS DOS SANTOS(ディーナ・プリエスドスサントス)さんの「Ghostly Memories from My Time as an Air Hostess」です。

カールソン ───── 作品を選ぶのは、そんなに難しくはありませんでした。ウィリアム・ダグラス・カールソン賞を受賞した作品とその作者は、素直な真実である記憶を取り上げました。記憶というテーマは、これまで多くの作品が主題にしてきたものです。多分、記憶は、大切なものにちがいありません。もし記憶が本当に大切なら、感傷的なガラス作家がかなり多いのでしょうね。
 作品の記憶と、この作品のタイトル「Ghostly Memories from my Time as an Air Hostess」が、すべてを語っています。私たちは、目的地に到着するためだけに、何時間も飛行機に乗ります。そして客室乗務員からサービスを受けます。客室乗務員は、サービスを一日中、毎日しているのです。私たちは、たまに飛行機で旅をするだけです。
 作品は、機内で使う食器を集めたものです。残骸であり、部分的に朽ちています。すべてが使い捨ての製品です。客室乗務員の悪夢に現われる、幽霊のようにも見えます。
 以前の国際ガラス展・金沢の本審査とシンポジウムでご一緒した審査員、チェコのガラス作家、イジィ・ハルツバさん。すばらしい人物でしたが、彼がよく使っていた表現の「わび さび」を思い出します。ハルツバさんは、審査の際に、特に気に入った作品を見つけると、「わび さび」と表現していましたね。独得の雰囲気がありました。残念ながらハルツバさんは亡くなられましたが、私たちはハルツバさんのすてきな記憶を持っています。ハルツバさんが「わび さび」で表現したのは、究極の芸術的・美的な素直さではなかったでしょうか。これは、とても素直な作品です。仰々しいところはありません。
 私たちが、かかわりを持つことのできる出来事の記録として、単にガラスを使っているだけなのです。

 

武田 ───── ありがとうございます。ただ今カールソンさんが紹介された「わびさびという日本の美意識に随分こだわった以前の審査員」とは、チェコの作家のイジィ・ハルツバさんのことです。日本の文化と歴史に非常に関心をお持ちで、それは恐らくチェコスロバキアが非常に特殊な歴史を持った国だということもあったのでしょうけれども、西洋的な文化、歴史と東洋的な文化、歴史の両方をもって、直感的に肌で感じてコメントされる方でした。私も非常に印象的でしたが、カールソンさんもそれを言っているのだと思います。今、アルゼンチンの作家の作品に対してわびさびというコメントがあって、私も驚いているのですが、非常に興味深い話だったと思います。
 次に、藤田潤さんの審査員特別賞を受賞したのは、日本のアビルショウゴさんの「フォルム2016」です。

 

藤田 ───── 私が選んだのは、板ガラスの基準内での溶着と曲げで作られたアビルさんの作品です。非常に厚い板ガラス2枚を途中で付けて、さらに柔らかいうちにねじって曲げています。アビルさんはこのような作品をずっと作っていらっしゃって、もう50代になられたので若いとは言えないと思うのですが、常に力強い造形を目指されています。面白さを狙って作っているのではなく、造形の根源にあるものを常に追求している姿に非常に好感が持てます。板ガラスだけの作品なので、色もついていない無機質なものなのですが、そこに含まれている日本的なみずみずしさを強く感じて、この作品を私の審査員特別賞に選びました。

武田 ───── 私の審査員特別賞の作品は、日本の小林えり子さんの「あなたは一本のバナナ」です。この作品の豊かさというか、ボリューム感、ダイナミックな感じとこれを作られた女性を比較して、ちょっとした驚き、感動がありました。一体どういうつもりで300本ものバナナを作ったのか、また、それは何のためにバナナでなければならなかったのか、深い意図は分かりませんが、コメントを読むと、バナナの中は作者自身も含めた人間のようなものであり、それぞれがバナナの皮をかぶっているということです。言ってみれば、いろいろな色と形をした人間の一つの集合体です。自分自身が住んでいる人間社会の中で触れ合うさまざまな人間は、表は違うのですが、実は中は同じです。そのような存在を何かの形で表現したいということで、それ以上深い考えは何も持たずに、例えば造形的にどうするか、美的にどうするかということも考えずに、ただひたすらバナナという人間をたくさん作って、それをフュージングで固めて一つの大きな塊にしたわけです。そのストレートな表現意欲が、説明抜きでちょっとした感動を呼んだと思います。ガラスの仕事としてはなかなか興味深く、また若い女性ですから、そういったところに真っすぐ進んでいったことに敬意を表して、審査員特別賞を差し上げました。

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