[ハルツバ] 今や、ガラス芸術というのは美術の一部になっています。この石関敬史さんの作品は、その良い例でしょう。この作品は、世界のどんな美術館に収められても引けを取らない、そういった作品だと私は思います。これを見ていると、日本独特の「わび・さび」という感覚が彫刻になったというような印象を持ちます。昔の人の知恵、「わび・さび」の持つすべてのクオリティが、この作品の中に閉じ込められているように思います。この作品は、有機的な形、未完成でありながら完成しているような完成度、いつまでも作り続けていくというような終わりのなさ、そして、はかなさを含んでいます。
優しい感じがして、また壊れやすい、それはちょうど私たちの命や日々の暮らしのようなものです。とても単純で、けれども全部を主張しないで少し引いた感じもするし、また、全部を出さない、大げさではない、少し控えめな面もあり、また、貴重な時間が過ぎていく一瞬のきらめきや輝き、そのような気もいたします。それは、取りも直さず私たち生きている有機物の持っている運命を表しているような気がします。しかも、そのような人間の運命を象徴するような作品でありながら、芸術作品としてもとても美しい形をとどめています。実はこの作品は、送られたときに一部が破損してしまっています。その部分はどうしようかという相談もあったのですが、破損したために、この作品はさらに魅力を増しているような気が私はします。日本人の持つ禅宗の感覚を私はこの作品から受け取ります。
この作品は、私たちがコンテンポラリーアートとして見るさまざまな作品の標準を超えた、高みにある作品だと思います。そして、私たち人間の存在そのものにも触れています。今日、私たち人間、それから地球に暮らすすべての生物が危険にさらされています。この地球という惑星全体が危険にさらされているのです。この作品を見ていると、もしも私たちがこの世界的な危機に何も行動を起こさなかったら、もしかしたら世界の終わりが来るのではないかという危機感がわいてきます。私たちが文明や豊かな生活をさらに追い求め、そのスピードをどんどん速めていけば、この惑星の終わりに近付いてしまう、そういったことをこの作品は警告しているような気もします。
[武田] ありがとうございます。「わび・さび」という言葉が出ましたので、簡単に申し上げておきますと、これは日本の中世の美意識で今日まで続いている、「わびしさ」あるいは「寂しさ」という言葉から発した独特の見方・考え方です。非常に簡素な中に計り知れない深い趣を感ずるものに対して「わび・さび」という言葉を使い、これがその後の日本の美意識にずっとつながっているのです。それをハルツバさんがこの作品に感じたということです。
では、次は金賞の作品です。ハンガリーの作家で、Laszlo Lukacsiさんの「FAN」という作品について、カールソンさんからコメントをお願いします。
[カールソン]
私は今回、初めて審査員としてこの「国際ガラス展」に参加させていただきました。そして、4人のそれぞれ個性豊かな審査員の方と、とても良い時間を共有させていただいたことに感謝しています。
この作品は、先ほどのグランプリとは全く違った、対極にあるような作品です。皆さまはこれをご覧になって、「ああ、ガラスの作品というのはこういうものなのだな」と、何となく見慣れた印象を持たれたと思います。これがその作者の、ガラスという素材を使って何かを作っていくときの新しい解釈、新しい情報なのですが、私たちは「これはガラスだな」というふうに見慣れている、そんな作品です。
技術的には、積層や彫刻などが使われていますが、この作品を見ていると、作品自体がぐーっと動いていくような感じがします。そういうイリュージョンのようなものを感じさせながら、作品自体はソリッドな、硬い感じがします。この作品をぐるぐると回ってご覧になると、見る角度によってその作品が違って見えてくると思います。こういった効果から、この作者がガラスという素材を使って新しい情報を皆さんに示したいという意図がくみ取られます。
もしこのガラスという素材が言語であったならば、この言語にはたくさんの方言があります。ある方言はすぐに消えていく。それがグランプリの作品であり、一方では明解な方言もある。それがこの作品と言えるでしょう。ガラスという素材をしっかり捉え、新しい発見や発明を見つけていく、さまざまな機会を私たちに与えてくれます。
[武田]
ご紹介が遅れましたが、ただ今コメントを頂いたウィリアム・カールソンさんは、1982年の第1回世界現代ガラス展の国際コンペにおける最初のグランプリ受賞者で、現在は大学で教えられています。その前のハルツバさんは、ご承知かと思いますが、ガラス・エングレービングの世界の第一人者です。それから、後でお話しいただくクリステンセンさんは、デンマークの美術館の特にガラスで、北欧・ヨーロッパ中心に非常に多くの業績を残されて、現在も活躍中の方でございます。横山さんは、ご承知のようにベテランのガラス作家です。
次に、銀賞に移ります。まず、アメリカのCarol Milneさんの「IMPERFECT FOR YOU」という作品について、これもカールソンさんにお願いします。
[カールソン]
先ほどお話したように、もしガラスが私たちの日々使う言語であったとしたら、先ほどの金賞を得た作品とは全く違った解釈をこの言語はしていると思います。しかし、仕上がりはとてもチャーミングなオブジェとなっています。私たちは誰でもソックスをはきます。だから皆さんにとって身近ですね。「わび・さび」というところからは遠いのですが、何となく気取っていない、ちょっとカジュアルな、そんな解釈をしている作品で、ガラスの新しい魅力として、私たちが毎日はいているソックスのオブジェになりました。
この作品のコンセプト、技術、新しいアイディアは、非常に素晴らしいと思います。そういった面が、この作品を非常に新しい作品としています。また、とてもシンプルなところがこの作品を成功に導いていると思います。今ご紹介してきたグランプリ、金賞、銀賞の三つの作品は、焦点を置くところも違えば、技術も違えば、さまざまな点が違うのですが、それぞれにとても素晴らしいレベルを持っていて、ガラスを使ってこんなこともできるのだという、非常に多面的な、多様な結果を選べたことで、審査員としての責任を果たすことができたのではないかと思っています。
[武田]
ありがとうございます。これは画像で見ると巨大なのですが、それほど大きくはない作品です。
次に、同じく銀賞で、日本の鍋田尚男さんの「紬」という作品について、クリステンセンさんにコメントをお願いします。
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