Discussion
審査講評

上位入賞作品の講評(1)

Shape of Emotion
Shape of Emotion
姜 旻杏 KANG, Min Haeng
(JAPAN)
光華A Flowery Shine
光華 A Flowery Shine
塚田 美登里 TSUKADA, Midori
(JAPAN)

武田 ───── 皆さんの手元に資料が少しあろうかと思います。最初にグランプリ、最高賞の姜旻杏(カン・ミンヘン)さんの作品からまいります。これについては、まず皆様から見て右側のカールソンさんからお願いします。なお、時間が限られていますので、できるだけシンプルに内容の濃いメッセージをお願いします。

 

カールソン ───── 「国際ガラス展・金沢2013」の本審査に再びお招きいただき、金沢にもどって参りましたことを光栄に思っています。審査員の一人として「国際ガラス展・金沢2010」の作品と今回の作品を比較する機会を得ました。学生、プロのアーティスト、すでに名をとげている作家たちの作品とその表現に目をみはる思いでした。ガラスという神秘的な素材で自己主張をしています。
 武田先生が指摘されたように、審査員たちは受賞作品の決定について戦ったわけではありません。何度も真剣な議論を重ね、どの作品がグラスアートの創造性にまで高められているかを考えました。
 最終的には投票が行われ、その結果同点でした。慎重な話し合いが行われました。この2つの作品が同じように支持されたからです。しかし最終的には「Shape of Emotion」が審査員に新しい感覚を与えるということで、グランプリに選ばれました。
 キャスティングの質の高さ、自然をどう解釈しているかが、我々審査員に見慣れたものを超越した何かを見せてくれていると感じました。
 審査員にとって上位の賞に値するような作品に出会うことは素晴らしいことです。我々審査員はどちらをグランプリにするか決めなければなりません。それは素敵な義務でした。
 ここで、同じ審査員であるラーセンさんがグランプリ受賞作品の解釈について話してくれます。

 

武田 ───── では、同じ作品についてラーセンさんからお願いします。

 

ラーセン ───── 皆さんおはようございます。私も今回審査員として、この興味深く大切なガラス展にお招きいただいたことに感謝申し上げます。私は長年日本のガラス作品の多くを見る仕事についてきました。最近の日本のガラス作品の質の高さに感心しています。
 グランプリ受賞作品は、生命を感じさせると同時に個体です。この彫刻的な作品の精神とフォルムは有機的です。この作品に初めて出会ったとき、心の中で、また私の耳に波の音が聞こえました。そしてクジラのしっぽが海上高く立ち上がるのを見る思いでした。彫刻的なフォルムを持ちながら、ライラックの花の形のようにも見えます。同時に、この不思議な色は滅びゆくことを暗示し、それはすべての有機物がたどらなければならない道です。
 この作品のタイトルは「Shape of Emotion」です。私自身の感じたことと、初めてこの素晴らしい作品に出会った時の内なるイメージを今お話ししています。この作者がこの驚くべき勇敢な作品を通して感情を創造し形づくっていることを、皆さんにお伝えしたかったのです。この作品は過去と現在をつないでいるようにも思います。また、この興味深い作品と作者の未来への道を示していることを私は確信します。

 

武田 ───── グランプリの作品についてお二人に講評をお願いしました。引き続いて、最後の段階でどちらと決めかねて、4人でディスカッションしたもう1点の作品、金賞を受賞した塚田さんの作品についてコメントを横山さんにお願いします。

 

横山 ───── 金賞に選ばれた塚田美登里さんの「光華」は、実に堂々としたフォルムと繊細な模様の美しさを合わせ持った、立派な作品だと思います。デザインがまたいいなと、うまくまとめたなと思います。大ぶりな器の形なのですが、そういう伝統的な花瓶の形、あるいは繊細な美しさを持った工芸的なもの、それを超越したトルソーあるいは甲冑を思わせる彫刻的な存在感を放出している素晴らしい作品だと思いました。私は会場でこれを見た瞬間に、これは賞に選ぼうと思ったほど胸にぐっときた良い作品だと思います。

 

武田 ───── では、私も少し講評させていただきます。先ほどの姜さんの大賞の作品と塚田さんの金賞の作品は、私も優劣つけがたい評価をしました。しかも、これは何かスタジオグラスという戦後のガラス造形の大きな二つの方向性を象徴しているような感じがしました。
 塚田さんの作品は伝統的なガラスの器の形態を残しながら、それをダイナミックにオブジェ化していくという、しかもその中に彼女自身のコンセプト、例えば自然との対話、様々なことを含めながら新しい装飾性も含めて、そのための技術も開発していった素晴らしい堂々たる作品です。もう一方のグランプリの作品は、果たしてこんなフォルム、こんな形、こんな色がかつてあっただろうかと思わせるほどの、見たこともない非常に独創性の高いフォルムで、その中に帰されたコンセプト、その精神性の強靭さ、しなやかさを感じました。
 この審査会で私は意見を申し上げたのですが、金賞作品の大らかな開放的な造形性と、グランプリ作品の凝縮された、内側へ潜り込んでいくような精神の、あるいは生命体、あるいは細胞と言っていいのですが、原点に迫るようなものが徐々に動き始めて、不思議な形を作ってきたということまで連想させる、非常に造形力の強い作品だと思っていました。どちらにしても非常にインパクトが強く、4人の審査員に最初から刺激を与えた作品だったと言えるかと思います。

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