Discussion
講評会

審査員特別賞受賞作品の講評

Loophole
Loophole
近岡 令 CHIKAOKA, Rei
(JAPAN)
Water Well
Water Well
ZHENG, Yi Han
(CHINA)
海碧絣–水面と光–Surface and Light
海碧絣–水面と光–
Surface and Light
上野 ツカサ UENO, Tsukasa
(JAPAN)
空形–ウツカタ–
空形–ウツカタ–
横山 翔平 YOKOYAMA, Shohei
(JAPAN)

武田 ───── 次に、毎回やっておりますが、各審査員が自ら独自に1点を選ぶという審査員特別賞があります。この作品の講評に入ります。最初はウィリアム・ダグラス・カールソンさんのカールソン賞、これは日本の近岡さんの作品です。これについてコメントをお願いします。

 

カールソン ───── この作品については、低いエネルギーのパワーについて話しました。この作品は、まったく異質のパワーを秘めています。

 そのパワーとは単に、ガラスのこわれやすさです。技法は、薄くコイル状にキャストしたガラスを細い金属のピンで構造体として成立させています。ひとつのポイントで、ひとつの角度から、この作品の全体を見ています。そしてこの作品にもっと正面から向きあうと中から向こうが見えます。しかし向こうにはもう空間はないのです。これは、ガラスのはかない使い方です。

 この作品に出会い、私は息をのみました。とてもこわれやすい作品です。このような作品の作り手であることを想像してみて、ほとんどガラスの皮ふのような作品を作る全行程を、とてもじゃないけれど、こなせないなと思ったのです。とても薄くて、限界があって、花びらのようにこわれやすい。私は息をつめて、この作品をこわさないようにします。

 この審査員特別賞のおかげで、私たち審査員は再び、すべての作品を見る本当のチャンスがあるのです。いくつかのすぐれた作品を選び、賞を決めました。しかし、そのほかの作品も認めてあげたいものがたくさんあります。審査員には、自分の名を冠する賞にふさわしい作品をみつけるために再び作品をたずねる、特別なチャンスがあるのです。それこそこの国際ガラス展のエネルギーだと思います。

 

武田 ───── ありがとうございます。次の審査員特別賞はラーセンさんが選んだ作品、中国の作家です。お願いします。

 

ラーセン ───── この作品の作者は中国出身ですが、現在、金沢に住んでいます。いろんな発想を解釈して、ほかの素材へと形を変える方法は、これまでずっと私を魅了してきました。だから、私はこの作品をラーセン賞に選びました。

 作者は高い街区に囲まれた街に居て、空が見えないからと、さがしているような感覚をうまく創り上げています。作者は、見上げる代わりに、私たちに空をみつけるようにと望んでいます。町の建物の間にある深い井戸に空が映っている、その空をみつけて欲しいと。だから、この作品のタイトルが「Water Well」なのですね。

 この彫刻のような作品は、フォルムも物語性も詳細です。私が感動したのは、作品のクオリティです。町の風景をとても小さなスケールの中にうまく表現していることや、作品の仕上がりの完成度と美しさや、物語性が見る者の感情をゆり動かし、私たちの物理的な環境、日々の暮らし、夢について、疑問を投げかけていることに、印象を深くしました。

 これからもずっと、この作者がどんな作品を作っていくのか見つづけなければと思っています。私が自分の賞のために作品を選ぶチャンスを、ありがたく思いました。

 

武田 ───── この作品は高さが10cmほどで、端から端まで一番長いところで47cmという大きさです。その前のカールソン賞の作品は、最大でトップから底まで28cmという、さほど大きい作品ではありませんでした。

 では、三つ目の審査員特別賞、横山賞をお願いします。日本の上野さんの作品です。この作品の最大の長さは63cmとなっています。

 

横山 ───── 私が選んだのは上野ツカサさんの「海碧絣(かいへきかすり)―水面と光―」という作品です。これはご覧のように1枚の全くシンプルな板を湾曲したフォルムで、自己主張するところが見当たりません。非常にシンプルなフォルムです。うっかりすると見過ごしてしまいそうですが、よく見ると手の込んだ精緻な織り目模様が実に美しいのです。ずっと見ていて、この作品をワイドスコープのような形に立ててみたところ、俄然、空間に広がる平面作品としての別の美しさを見せてくれました。このような作品の置き方は作者の意図とは異なりますが、私の感性を触発し、この作品の新たな展開を予感させるところに魅力を感じ、賞に選びました。

 

武田 ───── それでは、最後に私、武田の審査員賞についてコメントさせていただきます。日本の横山さんという方の作品で、サイズは一番幅のあるところで57cm、ほぼ球体、ゆがんだ球体です。コンセプトについては資料にもありますが、過去の時間を思い起こさせるノスタルジックな事柄というのは日常でよくあることです。昔の知人に出会ったとか、昔の何かを思い出すことはあるのですが、その懐かしい過去の時間というものを愛おしさとして実感して、それを何らかの形にしたいという、解説を聞くとむしろ分からなくなってしまって、なかなか詩的な文章だなと思っていました。

 私がこの作品を見て感じたのは、そういうコンセプトがあるにしても、その思いが、形というよりもガラスという宙吹きの中に封じ込めるという行為に、どうもこの作家は大変こだわっているようです。造形的に見て何か特別に優れていると感じたわけではないのですが、ただ不思議な、言ってみれば、何をどう主張するということもない、ある一つの膨らみというものに対してこの作家が思いを込め、しかも、それをこれからどのように造形的に展開させていくかという、いろいろな意味であまりにも先々が見えない、つまり、この作品自体が造形的な主張をほとんどしていません。ガラスに限らず絵画でも彫刻でも、明快な主張があると同時にそういうものが一切見えない作品もあります。しかしながら、両方とも何かを見る人に感じさせることはあるわけで、それにはその理由がきっとあるだろうと思うのです。

 私はこの作家が今後どういう方向にガラスを使って自分の思い込みを展開させていくのか、その未知なる世界、未知なる将来への期待、そして、何も装飾性のない一つの膨らんだガラスの形だけで作品として存在させていることに対してちょっとした魅力を感じて、あえてこれを選びました。まさに先ほどラーセンさんがおっしゃっていましたが、この先の展開が、一人の作家の生き方としてどうなるのか非常に楽しみにしたいと思って選ばせていただきました。

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