Discussion
講評会

上位入賞作品の講評(3)

Vestige
Vestige
藤掛 幸智 FUJIKAKE, Sachi
(JAPAN)
源氏物語第十三帖「明石」より
源氏物語第十三帖「明石」より
山本 茜 YAMAMOTO, Akane
(JAPAN)
BORKOVICS, Peter
Image Rotation
BORKOVICS, Peter
(HUNGARY)

武田 ───── 次は、同じく奨励賞を受けられた日本の藤掛さんの作品について、ラーセンさんにお願いします。

 

ラーセン ───── この作品から私たち審査員がさまざまな作品を選んだと分かっていただけますね。そんな意味でこのガラス展は興味深いです。この作品はとても面白いオブジェです。最初に見たときに私の目にとまりました。これはオブジェです。持ち主がなくしてしまって、このオブジェはひとりで戦わなければいけない状況に置き去りにされた、そんな気がします。

 この作品のタイトルは「Vestige」です。審査の後、私はこの言葉の意味を調べました。日本文化の美しくも悲しい意味が含まれています。Vestige (面影) は、何かが少しずつ消えていくとき、または何かが終わりに近づいていくときの感情を表しています。  人はすでに喪失の経験があり、喪失はまた繰り返されるでしょう。このタイトルこそ作品のスタイルであり、メッセージ性です。

 作者の使っている技術は、フュージング、ホットワーク、サンドブラストです。このオブジェは、外側が柔らかく滑らかでマットです。しかし、上と底の部分は固定されていて、作品の中にミステリーを隠しているようにも感じます。

 この作品の持つ運命についてのエピソードは、現実を超越しています。このオブジェは、この変化の瞬間をとらえています。哲学、詩、繊細さが、この彫刻的な作品に不思議に組み合わされています。それが奨励賞にふさわしい理由だと思います。

 

武田 ───── 皆様のお手元の資料には、作品のサイズが出ていないかもしれません。今、イメージで大きく映って、巨大な作品になっているのでちょっとイメージが湧かないかもしれませんので、サイズを申し上げておきます。

 ただ今のこの作品は、最大の高さが28cmぐらいのものです。ちなみに、その前の日本の渋谷さんの、非常に直線的な構成の作品がありましたが、これは一番長いところで80cmぐらいの大きな作品です。さらに、その前の日本の磯谷さんの存在感のあるどんとした作品は80kgあり、直径が約50cm近くあります。非常に大きい作品です。その前のグリーンの大きな彫刻的な器、韓国の金さんの作品なのですが、この作品も直径が50cmぐらいあります。

さらにもう一つ、「糸は繋ぐ」という作品は一番長いところで1m15cmぐらいあります。そのさらに前のデンマークのステファンさんの作品は1個ずつのシリンダーのようなものがずっと並んでいますが、最大のもので高さが25cmぐらいという、それで大小いろいろそろえられたものです。以上、ご参考までに申し上げて、次へ進みます。

 

武田 ───── 次の作品は同じく奨励賞の、日本の山本さんの作品です。これについては私が簡単にコメントします。この作品は高さが16.5cmぐらいであまり大きくありませんが、非常に特徴的なのは切金という装飾技法で、日本の伝統的な仏像などにもよく使われます。その切金の技法をガラスと併用することによって、切金の美しさをかつてない新しい表現の中に取り入れたいということでやっているようです。特に透明性が必要なガラスの立体のカットの形を非常にオブジェ風にやりながら、さらに、このテーマである源氏物語が大変お好きなようなのですが、このテーマに沿ったイメージを盛り込むために相当な工夫をしています。この切金をどう入れるか、どうカットしたものをガラスの中に封じ込めるか。そして、カットによってどの面から何が見えるか。そういうことで相当苦労しながら、一作一作、新しいガラスの表現世界を求めたいと言っている作家でした。今度の作品はあまり大きくはなく、ダイナミックなオブジェとは違う世界ですけれども、ガラスの新しい可能性を追求した作品として奨励賞を受けました。

 

武田 ───── では、次に参ります。同じく奨励賞の、ハンガリーから出品された作品です。これについては横山審査員からお願いします。

 

横山 ───── 奨励賞、ハンガリーのボルコウィクス・ペーテルさんの作品で「Image Rotation」です。この作品は、この技法あってこのデザインという、技術と表現が大変良い形で融合していると思います。独特の、独自の技法から独自のデザイン的モアレ模様を生み出しています。逆の言い方をすると、この視覚世界をつくり出すためにはもうこの技法しかないのではないかとさえ思わせるような技術とデザイン、表現の融合という形が見えます。作家の工夫の跡が見られる、良い作品だと思います。

 

武田 ───── ちなみに大きさは50×43cm、大変大きい平面の作品になっています。

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